パチンコと日本人 (加藤 秀俊/講談社)

書籍パチンコと日本人(加藤 秀俊/講談社)」の表紙画像

購入価格:351

評価:

この記事は約2分55秒で読めます

随所に狂気を感じる。著者はパチンコ狂いで、それを研究と称して通いつめているように思えてならない。展開や理論の飛躍が逆に清々しい。

わたし自身もこの「オール7」を経験したことがある。とにかくそうなったばあいには、文字どおり「フィーバー」であって、つぎつぎに流れだしてくる玉をいったいどうしてよいかわからないような狂乱状態になってしまう。 (中略) 盤面上のグラフィック・デザインとクギの配列デザインによって、われわれのがわでのパチンコ機械やその盤面上を流れる玉の軌跡についてのパターン認識は完全な錯乱状態におちいってしまう。そして、このおどろくべきデザイン能力にもわたしはつねに感動してしまうのだ。 (中略) その色彩感覚といい造形といい大胆かつ奇抜である (中略) いかに大胆なデザイナーといえども、パチンコ台のデザインの前には完全にカブトを脱ぐにちがいない。パチンコ台のデザインは「ポップ」に徹しきっており、前衛芸術家たちの心胆を寒からしめるほどの強烈な効果をもっている (中略) まったくの混沌とアナーキーがこのデザインを支配しているのである。そして、こんなに奇抜なデザインの自由を獲得しているデザイナーはパチンコ業界以外に見あたらない

戦前まで子どもの遊戯具であったパチンコがこのころから大人のゲームとして定着しはじめたという事実である。子どもの遊び道具を大人が取りあげるというのは、心理学的にいえば、一種の退行現象であろう。じっさいわたしが自著『余暇の社会学』(PHP出版)のなかで、ボードリアールの説として引用したように、現代社会における多くの余暇活動はなんらかのかたちで退行現象であり、パチンコなどはボードリアール的文脈でいえばその退行的傾向がもっとも顕著にあらわられているきわだった一例である

むきだしの現金の授受ということは日本文化の文脈のなかでは、かならずしも楽しい経験ではありえなかった (中略) 現金のほうがはるかに使用価値および交換価値をもちうるはずなのだが、現金を勝負の場で手にすることには文化的な恥じらいがともなう。パチンコ産業が隆盛でありえたのは、わたしのみるところでは、もっぱら「景品」という、ゆるやかな報酬で賭けの精神が処理されてきたからなのである。

この指摘は案外に重要ではないかと思う。また、著者はこれを「景品の思想」として、書籍の付録も引き合いに出す。

婦人雑誌の広告を新聞などでみると、お料理の本だのファッションの型紙だのが付録になっている。 (中略) こうした付録という印刷物は外国の雑誌では、すくなくともわたしの知るかぎりみあたらない。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  • 読書記録

    2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。

  関連記事

闇の子供たち

しばしば時間がないと、人はいう。そこで長寿は、無い時間が増えることになるのだろう ...

『新約聖書』の「たとえ」を解く

文字通りにしか受け取れていなかったイエスのたとえ話が立体的に立ち上がってくる感じ ...

オランダ風説書―「鎖国」日本に語られた「世界」

私を含め多くの日本人は、鎖国には外国排除、外国人許すまじというような強いイメージ ...

感染症の世界史

リアリティを持って本を読めることの喜びというのもある。1858年にペリー艦隊が長 ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2024 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.