自分の「異常性」に気づかない人たち 病識と否認の心理 (西多 昌規/草思社)

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たまに、自分が普通の仮面をかぶっているような気がして、常識人を演じているような気がして、居心地が悪くなることはないだろうか。少なくとも、私はある。

正常であることは、案外に説明の難しい状態である。平和が「戦争ではない状態」という消極的な表現しかできないように、正常は「異常ではない状態」とでもしか言いようがないのである。

四六時中狂っている人はいない

我々はなにかにつけて一貫性を求める。そのために、彼はひどい人であるとか、彼女はやさしい人であるとか、その人をひとつのわかりやすい型に当てはめて認識する。

「二重見当識」という用語がある。人は妄想にとらわれると、自分のまわりのすべての世界が、妄想の支配を受けてしまうと考える。しかし、妄想の世界に100%べったり浸っているわけでもない。妄想と現実の世界を行ったり来たりして、「二重」のものの見方をすることで、折り合いをつけようとしている。

言うまでもなく、人間は矛盾の塊である。しかし小説においては、登場人物のキャラクターは矛盾してはならず、一貫性がなければならない。

たとえばタバコの匂いが嫌いな人が、別の場面でタバコが好きであってはならない。読者には納得がいかず、不自然極まりないからだ。

しかし現実世界の人間は、そのような矛盾を平気で無数にかかえているものなのだ。

ハイテンションの理由

よくよく考えれば、なぜ人には感情の浮き沈みがあるのだろうか。テンションの高低はどこからやってくるのだろうか。

丁寧に自分の心のひだをたどってみれば、単に気分や飲酒その他薬物の影響だけでは説明し切れない部分が残るはずだ。

『自分を抑えられない』『まわりがバカに見える』というのは、躁状態の特徴である万能感、衝動性の亢進だ。 (中略) 典型的な躁状態は、わたしたちが飲み会でテンションを上げている比ではない。躁状態を代表する古典的な行動である、いわゆる浪費が、数日で数十万から数百万、なかには高級外車や不動産であっというまに数千万円規模の浪費をする人もいる。 また生命エネルギーが、異常に高まる。性欲を例にとれば、躁状態で常軌を逸脱した行動をとり、家族関係に深い傷を残すこともある。食欲も高まるが、動きが激しく消費エネルギーが増えるので、むしろ体は痩せてくる場合が多い。睡眠の必要性がなくなり、「寝なくても平気」という、睡眠欲求の減少傾向が顕著になる。

病症としての躁が混ざっていないという保証はない。むしろ、ほとんどの人は未病の状態で、躁鬱を内包しているのではなかろうか。

誰が病気で、何が病気か

うつ病という言葉が人口に膾炙して久しい。昔は怠惰としてしか扱われなかった。

うつに限らず、病気とは命名でもあるから、名付ければ名付けただけ新たに病気が増えていく。つまり病気は、増えることはあっても減ることはない。

フランスの思想家、ミシェル・フーコーは「人びとがお互いに自由であればあるほど、他者の振舞いを決定しようとする相互的な欲望も大きくなります」と述べた。この病理は、境界性パーソナリティにとっては顕著極まりない。

多かれ少なかれ、すべての人は個性的であるのと同様、人はみなどこかしら病気なのだと思う。現代、重要なのは、自分は何の病気ではないか、という逆転の認識ではないか。

たとえば皆が皆スマホを四六時中いじって普通の時代においては、スマホを持たないことの方が、よりその個人の特徴を説明するのに役立つように。

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