夜明けの街で (東野 圭吾/(角川文庫))
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なにはなくともネタバレ注意と書くべきなのだろうが、個人的には、ネタがバレても、なんなら全て知っていても、なお人に感銘を与えられることが名作の条件だと思う。
夢を追うのは簡単
夢を追うこと自体に、素晴らしいもつまらないもない。それは進学、就職と変わらない単なる個人的な選択であって、そこに良いも悪いもない。
地下芸人とは、テレビには不向きな芸風をしていたり、長年くすぶっていて、いつまでも世間に浮上しない芸人のことを指す。
なるほど。それなら私は筋金入りの地下芸術家であろう。
「ここ最近、先輩にしろ同期にしろ、身近な芸人が次々と辞めてる気がするな」
「まあ、そりゃねぇ。俺達の同期はみんな芸歴十年目でしょ。節目と言うか、諦めがつくタイミングだよね」
「たしかに。十年やって売れなきゃな」
わたくし新宅睦仁は、画家に、現代美術家になるという夢を追いかけて、はや十五年以上が経つ。十年やって売れなくても全然やめない人もいる。
二人組の、相方のすばらしさ
私もかつて親友と現代アートユニットをやっていたので、二人組の芸人の気持ち、二人であれこれ相談し合って作り上げることの喜びは痛いほどわかる。
参考: ART DIS FOR
お札の肖像画は実在の偉人が多いのに、電子マネーカードに描かれているのがロボットやペンギンのキャラクターだったりするのはおかしくないか?
私の相方もこの手のすばらしく気の利いた話のできる人間であった。それはいま思い出しても、あまりにも素晴らしい時間だったと思う。
なんのために続けているのかわからなくなる
夢を追うのは簡単だが、やめるのは難しい。結婚式は誰でも心踊るものだが、離婚は気が滅入るのと同じである。
芸人とは――商品だ! ライブの客が、事務所が視聴者が、テレビ局が、時代が何を求めているかを分析して、それに合わせて自分達を売り込まなきゃならない。
人気商売の悲哀である。いわゆるマーケティングが重要なのだ。それはきっと、バカでも理解できることであるはずだが、実際に自分自身をマーケティングに基づいて売れる形に落とし込む、変形、あるいは歪ませることは極めて難しい。
なぜなら、夢を追うということは、しばしば一般社会からの逸脱であるので、そこから飛び出した極めて個性的な自分を、ふたたび社会の需要=一般的な価値体系に落とし込むことに抵抗があるのも無理のないことなのだ。
知り合いで賞レースに固執する芸人がいて、それはそれでいいことなんですけど、今の時代ってもう賞レースで優勝してもそんなに売れなくなっちゃってるんじゃないかと思います。もちろん優勝はインパクトあるんですけど、だからといって安泰ということでもない。なのに、その賞レースで優勝すれば全てがうまくいくと多分思ってて。もっというと、賞レースに毎年出ることによって、自分が芸人であることを更新してないか?
芸術家連中にも、このようなタイプの人間は少なくない。売れる気も評価される気もなく、ただただグループ展や個展を定期的に開いている。
それはたぶん、歳を重ねるほどに無意味に溶け込んでゆく人生に、なんとか無理やりにでも意味づけしようとする悲しい試みなのだろうとは思う。
もちろん、それはそれで実に人間らしいことではある。しかし私に言わせれば、そんなものはごまかしに過ぎない。夢を追うフリを続けることで、自分が真に向き合うべき現実から逃避しているだけなのだ。
何者でもない自分と向き合うのは恐ろしいことだ。だからこそ、芸人だとか芸術家だとかの肩書で、なんとかアイデンティティを保とうとするのである。
しかし、どう楽観的に考えても、逃避の先に成功がないのはもちろん、まっとうな自己実現、精神の成熟もない。
しばしば夢追い人を自称する人間が幼稚に感じられるのは、何もかも人のせい世のせいにして、逃避し続けて虚勢を張る思春期の少年少女と変わらないからである。
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