今日、ホームレスになった 15人のサラリーマン転落人生 (増田 明利/彩図社)

購入価格:472円
評価:
この記事は約3分48秒で読めます
ホームレスに関しては一家言も二家言もある。なんと言っても私は、ロサンゼルスのホームレス100人以上とハンバーガーをかじり合った男なのである。(現代美術作品「ONE BITE CHALLENGE」シリーズの撮影風景参照)
自己責任の果てに
怠けて勉強もせず働きもしなかったから、ホームレスになった。自業自得だ。これは日本では相当に幅を利かせている意見である。
「役者と乞食は3日やったらやめられないって言うだろう、あれは本当だな。」
そこでこのような物言いがホームレス自身の口から出れば、いかにもおあつらえ向きである。しかし私は全力で否定したい。
現代、資本主義社会、私もあなたも、誰も彼もホームレス予備軍だ。
因果の外
ああすればこうなる。仏教の根本的な考えとして据えられている因果とは、そういうことである。原因があって、結果がある。
それがこの世の真理であることは認める。否定のしようがない。しかし、その因果は、すべてその人自身の責によるものだろうか。
そもそも、この世に因果をコントロールできる人などいるのだろうか。
こういう暮らしをしていると、恥という感覚が日に日に失せていくんだ。ごみ箱に手を突っ込んで雑誌拾いするのだって何とも感じなくなった。ボランティアさんがやっている給食もはじめは惨めで情けなくて、新聞で顔を隠していたけど今はもう何とも思わないものな。道を歩くときも前は人に見られるのが嫌で下を向いて歩いていたけど今は普通に歩いている。
しばしば鬼の首でも取ったように叫ばれる「自己責任」とは、そういうことである。すべて、あなたのせい。あなたの責任。あなたが悪い。
人生というものは、ほとんどすべて、自分でそうしようと思ってもそうはならないもので、ああしようと思ってもああはならないもので、つまり、ままならない。
たとえ今、あなたの人生が順分満帆だとして、それは本当にすべてあなた自身で勝ち取ったものだろうか。たぶん9割がたは、生育環境含め因果の外の運、たまたまではないだろうか。
生きて虜囚のなんとか
アメリカの人口は日本の3倍。しかしホームレスの数は日本の124倍、57万人にも及ぶ。
定食屋を出てカプセルホテルに戻る道すがら某ファーストフード店の裏口付近でゴミ袋を漁っているホームレスと出くわす。「嫌だねえ、ああいう人は……あんなふうになったら死んだ方がましだよ」とノブさんは顔をしかめた。
やっぱりアメリカは格差が、社会構造が、云々。日本とは何もかも違う、だからアメリカの状況は対岸の火事に過ぎない、というような説明は日本人の好みである。
しかしそれは、猟奇殺人者の異常性を並べ立て、あれは我々とは違う化け物だったのだと切り捨てて安心しようとする根性となんら変わるところがない。
アメリカで起こったことは10年後に日本でも起こると言われる。それとは別に、私はこう考えている。
多くの一般市民以下ホームレス未満の人々は、米国の文化人類学者ルース・ベネディクトの指摘した「恥の文化」のままに、自ら命を絶っているのではないか、と。
先に引用したノブさんはホームレスである。しかしいくばくかの収入があって、ゴミ箱を漁るほどではない。それでも、ああなったら死んだ方がマシだという。なぜか。日本人には説明の必要がないだろう。
いくら独立自助の精神を重んじるアメリカとて、それに変わる民間の支援団体や制度は山ほどある。寄付文化やボランティア活動は日本よりもよほど熱心に行われているのはよく知られるところである。それで、むしろ公的な社会保障制度の不足を補って余りあるようにさえ見える。
そこで124倍などという差は、何かあまりにも不自然ではないだろうか。
- 前の記事
- サピエンス全史(上・下)文明の構造と人類の幸福
- 次の記事
- 炎上CMでよみとくジェンダー論
出版社・編集者の皆様へ──商業出版のパートナーを探しています
*本ブログの連載記事「アメリカでホームレスとアートかハンバーガー」は、商業出版を前提に書き下ろしたものです。現在、出版してくださる出版社様を募集しております。ご興味をお持ちの方は、info@tomonishintaku.com までお気軽にご連絡ください。ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づくノンフィクション的なエッセイを執筆。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。英語の純粋な日記。呆れるほど普通なので、新宅に興味がない人は読む必要なし。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。日々の出来事や、思ったこと感じたことを台本・編集なしで吐露。毎日更新。
関連記事
やぶから棒―夏彦の写真コラム
2016/04/30 book-review migrated-from-shintaku.co
天才かよ! という感じで、今後、わたしはこの人を目標として文章を書きたいと思いま ...
キャラクターズ
2014/05/22 book-review book, migrated-from-shintaku.co
次回の読書会の課題図書。 なんだか全体的に気持ちが悪い。やろうとしてることはなん ...
フィリピンパブ嬢の社会学
2017/10/22 book-review book, migrated-from-shintaku.co
DMM英会話繋がりのフォロワーさんの言及でこの本を知り、購入。一気の読んだ。 い ...
容疑者Xの献身
2012/12/31 book-review migrated-from-shintaku.co
最近やたらとよく聞くようになったNFTだが、まったく理解していなかったので、素直 ...
おもしろ処世術―対人行動学 (リキトミコミックス―マンガ心理学入門シリーズ)
2017/09/21 book-review book, migrated-from-shintaku.co
祖母の部屋にあったから読んでみたが、「おもしろ」でもなんでもない。得るもの甚だ少 ...