岡本太郎現代芸術賞落選者の遠吠え

  2020/08/19

先日、第23回岡本太郎現代芸術賞に落選した。

私はこの賞に十年以上毎年応募し続けているので、落選の通知を見るのはこれで十何回目かである。ここ数年は最終選考までは食い込むようになったが、落選であることに変わりはない。

このブログは2007年から書いているから、ほぼ同じ遍歴がある。しかしその間、この賞の落選を受けてブログを書いたことは、ただの一度もない。なぜなら、そんなことは「負け犬の遠吠え」であって、「恥」だと思うからだ。

落選していつも思うのは、私の作品は「何かが間違っている」ということである。しかし今回は、この十年以上の落選経験の中で、初めて何も間違っている気がしないから、恥を忍んでこの遠吠えを書くことにした。

ここで改めて、この賞の趣旨を確認しておきたい。

1954年、岡本太郎43歳のときに出版された『今日の芸術』。
この本には、「時代を創造する者は誰か」というサブタイトルがつけられていました。
1996年、岡本太郎没、享年84歳。
その直後、岡本太郎記念現代芸術大賞 (2006年 岡本太郎現代芸術賞に改称) 、通称「TARO賞」が創設されました。
彼の遺志を継ぎ、まさに「時代を創造する者は誰か」を問うための賞。
今年は第23回をむかえます。
「時代を創造する者は誰か」―この半世紀前の太郎の真摯な問いかけを胸に刻んで、創作活動に邁進する方々の、幅広い応募を呼びかけたいと思います。
応募規定に沿う作品であれば、その形状、技法等はまったく自由。
美術のジャンル意識を超え、審査員を驚かす「ベラボーな」(太郎がよく使った言葉です)作品の応募を期待しています。


引用元:岡本太郎記念館:岡本太郎現代芸術賞

確かにこれは「ベラボー」な賞で、アートの領域自体を拡張・更新しようとする気概のある、度肝を抜く作品群が毎年並ぶ。

そこに今回、私が応募したプランは、ロサンゼルスのホームレスと一つのハンバーガーを一口ずつ食べる――日本で言う「同じ釜の飯を食う」――ことで彼らと困難な状況を共有する試み「ONE BITE CHALLENGE」シリーズのインスタレーション作品である。以下に実際の応募資料の画像及びPDFを掲載する。

第23回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)に落選した応募用紙

第23回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)に落選した応募用紙

第23回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)に落選した応募用紙

第23回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)に落選した応募用紙

第23回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)に落選した応募用紙

第23回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)に落選した応募用紙

上掲全6ページのPDFダウンロード(1.18MB)

余談だが、この作品シリーズの別バージョンとなるプランが、アメリカのメリーランド州にある大学附属のギャラリーのコンペにおいて採択され、2021年に個展を開催する予定となっている。つまり、現代アートの中心と言われるアメリカにおいても、この作品は一定の評価を得ているということだ。

実際、ホームレスという、これから日本をはじめ世界中で同時多発的に起こってくる社会問題に深くコミットした本作は、現代アートの範疇を超えて発表する価値も意義も疑いのないところである。

ロサンゼルスのホームレスと一つのハンバーガーを一口ずつ食べる「ONE BITE CHALLENGE」シリーズの制作風景

ロサンゼルスのホームレスと一つのハンバーガーを一口ずつ食べる「ONE BITE CHALLENGE」シリーズの制作風景

ロサンゼルスのホームレスと一つのハンバーガーを一口ずつ食べる「ONE BITE CHALLENGE」シリーズの制作風景

恥もプライドもかなぐり捨てて、遠吠えを重ねよう。単身渡米し、すべて自費で、なんの援助も受けず、現地のホームレス100人以上と一人一人直接交渉してハンバーガーをかじり合うような日本人アーティストがこれまでいただろうか。年々小さく内向きに閉じてゆく日本において、この先ここまで気骨のあるアーティストが出てくるのだろうか。

もちろん、公募というのはひとつの政治であり、その時々の運や利害関係などがある。そんなしがらみの一切を乗り越えて、あるいは味方につけてこそ一流なのだということは百も承知だ。しかし、それでもなお、これが「ベラボー」でなかったら何がベラボーなのだろうかと、心の底から思うのだ。

この遠吠えを、99%の人が嗤うだろうことはわかっている。しかし残り1%の誰かしらが、この遠吠えを真摯に受け取ってくれることを信じてやまない。

「ONE BITE CHALLENGE」シリーズ作品紹介ページ
https://tomonishintaku.com/works/one-bite-challenge.html

岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)についての関連記事
新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  • 読書記録

    2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。

  関連記事

グループ展「KITCHEN」ART Space ZERO-POINT (東京) 2019/4/27〜5/6

本展がTOCANAで紹介されました!ぜひお読みください!(2019/6/13追記 ...

新宅睦仁 個展「COLOUR ME WELL」One East Asia Gallery (シンガポール) 2018/8/1〜8/21

このたび、シンガポールにて個展を開催する運びとなりましたので、以下の通りご案内さ ...

言葉のすき間と画のすき間(小池真理子『無伴奏』の映画を見て、小説を読んでの感想)

先日、小池真理子原作の『無伴奏』が映画化された。と言っても、原作の小説は読んだこ ...

ちょっとした、美術の話

昨日、初台にある東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の『高橋コレクション展 ...

美術家 笹山直規に頭が上がらない

今夜は待ちに待った、私の師と言っても過言ではない笹山直規氏の展示のオープニングで ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2024 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.