フリーター、野宿者、そして衰退する日本(2)

  2017/08/22

その2.「国家にとって野宿者(ホームレス)とはなにか」

国家にとってホームレスは厄介者である。願わくば消えて無くなれと思っている。

これは残念ながら真実である。

ときどきワイドショーなどで、公園や川辺に建てられたブルーシート張りの段ボールハウスが強制的に撤去されるニュースが報じられる。そして決まって行政とホームレスがもみ合う、がしかし、ほぼ100%ホームレス側が泣き目を見ることになる。

こんなときでもわれわれは前回の記事で書いたような感慨を彼らに抱く。すなわち、みんなが使う公園に勝手に住んでいる彼らが悪い、公園は子供たちが遊ぶところ、地域住民が憩うところ、だからして不法のうえに汚く臭いものは撤去して当然だ、と。

しかしそこを追われた彼らはどこへ行くのだろう。その後を行政が住まいから職業斡旋まで手厚くケアしてくれるのか。否、ほとんどの場合かれらはほんとうに単純に場所を移すだけである。悲しいほどにくさいものに蓋をしただけなのである。問題は何一つ解決していない。

そしてどこへ行くかと言えば、人目に着かない、追い立てられない場所、つまり多くの場合、人が住むには不適当な場所なのである。

そうした行政の愚蒙な強制撤去によって、こんな事件が起きた。

家を失ったホームレス2人が、仕方なくとある河川の中州に居を移した。そしてあるとき台風がきて、彼らは家ごと流された。救助隊がヘリを飛ばし、ロープを投げ、彼らを助けた。

当たり前だが、撤去にも救助にも税金が使われているのだ。この事例はイソップ童話なみに寓話的で特殊な例かもしれないが、似たようなことは無数にあるに違いなく、これを行政のマッチポンプだと言わずして何と言おう。

彼らはどこへ行けばいいのだろう。

1枚目の画像を見てほしい。これはぼくが専門学校に行く際にいつも通っている、新宿西口の都庁へと続く地下通路にあるオブジェ群、だとばかり思っていたのだが違った。

歴史を紐解くと、かつてこの通路にはホームレスが200人ほど段ボールハウスなどを作って暮らしていたそうである。しかし1996年に都庁へと続く"動く歩道"を設置するにあたって、200人ほどの段ボールハウスは一斉撤去の憂き目にあった。これは当時、メディアでも大きく報じられたそうなので、あるいは記憶にある方もおられるかもしれない。

その動く歩道と一緒に設置されたのがこのオブジェ群、否、「ホームレスよけ」である。名目上は景観のためとされているそうだが、このような物体を設置することによって、段ボールハウスが建てられるのを防いでいるのである。

毎日何の気もなしに見ていただけに、目からうろこであった。こういった事例は日本中に事欠かない、というのが二枚目の画像。

金網を張り巡らし施錠された公園は人の立ち入りを拒み、不自然な突起物が設けられた植え込みの縁は座ることを拒み、丸太状になったベンチは寝ころぶことを拒み、極めつけは小学校の塀に設けられた散水パイプで、毎朝定時に散水が始まるためそこで寝泊りするような輩を完全に拒否している。

かようにありとあらゆる手段で犬猫のごとく散々に追い立てられて、彼らは、いったいどこへ行くのだろう。そんな工夫をする暇と金があったら、抜本的な解決のための福祉なり制度なりを充実させるほうがよっぽど建設的に決まっているではないか。ただシッシッと追い立て続けているだけでは、彼らは結局また中洲のような危険なところに逃げ込むしかないのだ。それはまるでトムとジェリーの果てない追いかけっこにも似ているのだが、しかしあれほど爽やかなものであるはずもなく、もっとじめじめとして陰鬱な、そう、学校のクラスで無視され居ないものとして扱われているいじめられっ子のようなものである。

いじめられっ子は思う。もしかすると次元が歪んでいて、向こうからは自分が見えなくなっているのかもしれない。

いじめっ子は思う。見えないふりをしているが、願わくば次元を歪めて葬り去りたい。

むろん、歪んでいるのは社会であり、社会を構成しているわれわれ、ひとりひとりの性根である。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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