老いと出会う

  2017/08/22

目元にシミを見つける。あるいはホクロかもしれない。どちらにしろ以前はなかった。

まず何故という疑問がわく。日夜日焼け止めを塗りたくって、ちょっと洗濯を干す時さえも紫外線対策に余念がないにも関わらず、何故。

本当はわかっている。何故もくそもない。単なる老化である。それは刻々と進行して滞ることはおろか片時も止まることがない。

そう、わかっている。しかし、理解と受容は別の話である。戸惑いながら、その見慣れぬシミだかホクロだかを凝視する。美白か、サプリメントか、とにかくは抜本的な対策が必要だと考える。指先で触れて、皮膚を伸ばして、つまんで、それが埃などではなく否定しようもなく私の肉体の一部であることを確認する。

とりあえず、顔を洗う。入念に洗う。それからローション、乳液と厚く塗る。そして鏡を見る。言うまでもなく、事態はなんらの改善も見ない。

ここにきてようやく老化という現実と向き合うことになる。どんな物事にしろ、真正面から向き合うということは非常なストレスや疲弊、もっと言えば苦痛をもたらすものである。

だから、人はしばしば逃避する。たとえば、酒を飲む。そして寝る。翌日二日酔いであればなおよい。シミどころではなくなり、とにもかくにも吐き気や頭痛と戦わなければならないから。ついでに最近の悩みや心配事についても後回しになって、ただひたすらにうんうんうなっていればよい。ややもすれば苦行にも似てきて、運がよければ解脱して悟りが開けそうな気がしなくもない。

二、三日ならそれで間に合う。だが一生を逃げおおせるのは至難である。そこで編み出されるのは捉え方、解釈の変更である。

たとえば、歳のわりには肌がきれいではないかと考えてみる。実際、そう言われる。お世辞だとしても、それで本人がいい気になっているのならばどちらでも構いやしない。とにかくは、年齢を加味すればおよそ悪くない肌ではないか。

そう考えると、にわかに気持ちが上向く。それから、誰も彼も歳をとる。これは自然の摂理で仕方がないことだと開き直って楔を打つ。

かように婉曲なプロセスを辿って、ようやくで受容に至る。否、正確には受容というよりも諦めに近い。そこには昔の恋愛を引きずるようなもの悲しさがある。

ただ、今が思春期でなくてよかったとは思う。もしも自分の姿かたちに全神経を張り巡らせていたあの頃だとしたら、とても生きてはゆかれなかった。

歳をとることは鈍くなることでもある。そのおかげで顔中しわくちゃのしみだらけになっても、適当に減じた自意識で、恥ずかしげもなくかかと笑っていられるのである。それはいかにもよく出来すぎていて、まったく我々を作った神様には頭が下がるばかりである。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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