季節を偲ぶ

  2017/08/22

明後日はクリスマス、らしい。そしてあと十日もすれば大晦日で、お正月、らしい。

しかしここシンガポールには、そんな気配は微塵もない。日本人にとって先の行事は季節と分かちがたく結びついていて、だから私の頭は、今を夏のありふれた平日であると認識し、了解している。

実際、毎日のようにいつかの夏のことを思い出す、足繁く虫とりに通った蝉鳴く空き地の草むらの匂いとか、あるいは澄んだ川に飛び込む瞬間のことだとかを。

そう考えると、私は案外に風流な人間だったのだなと思う。文明に毒されて、カレンダーや湿度温度で機械的に季節を区切り、名月や~などと季節をくむ感覚など腐っているものだとばかり思っていたのである。

私の感覚は訴える。間もなくクリスマスであるわけがないと。はたまた大晦日が、次いでお正月がやって来るわけがないと。いやもっと、来てたまるかクソったれとさえ言う。

年の瀬の空気は、冬の寒さとともにある。日ごとに冷え込みは厳しく、しかし胸のうちはどこか浮き足立っている。空はいつもぼうっと灰がかって、たまのよく照った日も、夜に洗濯物を取り込めば半乾きかといぶかしむほどつめたい。

近年はめっきり年越しもなにも味気なくなったと嘆いていたが、しかしそれでも頭の片隅ではそっと一年を振り返っていたりする。そう、あれこそまごうことなき年末というものだったのだ――。

来る日も来る日も30度以上にまでのぼせ上がり、馬鹿は風邪ひかないを地でゆくような常夏の太陽を見上げながら、すべては冬の寒さとともにあったのだと恨めしく思う。

ふと「同じ月を見ている」という言葉が頭をよぎり、だけどいくら天体としての月は同じでも、夏と冬ほどかけ離れた空気の中で見るのでは、共有も共感もあったものではない。たとえ地球はひとつでも、時差のことは言わずもがな、この世界にはあまりにも別々の時間が流れていることを知る、生まれて初めての汗ばむ師走の夜である。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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