それぞれの苦痛

  2020/08/19

賃労働の昼休憩、他人と昼ごはんを食べるのが死ぬほど嫌いだ。

よく、というか毎日、昼ごはんを食べに行こうと、つるんで出かけてゆく人たちを見かける。まあ、ふつうの光景には違いない。

それにしても、一人はさびしいのだろうか。話すことがあるのだろうか。親睦を深めたいのだろうか。あるいは、みんなで食べるとおいしいのだろうか。

酒も飲まずによくやり過ごせるなと思う。ぼくには到底まねできない。する必要もないが。

たぶん、ぼくはぼくで、彼らに逆のことを思われているのだろうなとも思う。すなわち、「毎日毎日よく一人でメシに行くな」であり、「協調性のない奴だ」であろう。

ぼくとしては、どう思われても結構である。彼らにしたってそうだろう。ぼくのような「どうでもいい奴」に、どのように思われようが痛くもかゆくもないだろう。

ここまで書いて、呆れるほどどうでもいいことを書いてるなと思う。どうでもいいなら書かなければいいのだが、しかし、どうでもいいことを微細に書くのはどうでもよくないことだと思うので、やはりこれは、ぼくにとって書くべきことなんだろうと思う。

「どうでもいいこと」を完全にどうでもいいと切り捨てられたなら、それほど楽なことはないだろうけれど、どうでもいいこととは、生きている限りどこまで行っても手を切れないからこそ、毎度毎度、いちいち「どうでもいい」と価値判断を下し、不快に思い、嫌悪しなければならない。ほんとう、難儀なことだ。  

でも、それはどこかで真逆のエネルギーに変換されているのだという気がする。何かを「どうでもいい」と思うたびに、「どうでもよくないこと」がよりいっそう「どうでもよくないこと」になる。

たとえるなら、器量のあまりよくない嫁をもらったとしても、世の中にいる誰かを不器量だと思うたびに、「うちの嫁だって、まあ、けっこうなもんだ」という慰めになる。って、ぜんぜん例えられていないけれども。

とにかくは、「どうでもいい」と思うこと、そして「どうでもよくないこと」を確認するのは大事なことなのだ。

そういうわけで、この文章を読んでどうでもいいと思った人は、あなたの「どうでもよくないこと」が確かめられたのだと思って、どうぞお引き取りください。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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