記号論への招待 (池上 嘉彦/岩波書店)
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本書のタイトルだけなら、ほとんどすべての人が一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。それが逆に、ミーハーであってなるものか、読んでなるものかというせんない抵抗感を私に与えていたのであった。
人は数字(金)で動き、つまづく
かくいう私も、本書がKindle Unlimited(実質無料)に入っていたからこそ読んでみようかという気になったのである。多かれ少なかれ、皆そんなものだろうとは思う。しかし、我々が得とか損とか判断して選んでいるそれは、果たして本当に正しいのだろうか。
「50人にひとり無料」とは、「100人だとふたり無料」である。ということは、パーセンテージに直すと100分の2、つまり2%が無料。これを「広告主の立場」から見ると、「2%の割引」である。そう、この「50人にひとり無料」は「2%割引」とほとんど同じことをいっているのである。いまどき「2%割引」とうたっても、「消費税分還元」「1~3割引!」があたりまえのこの世の中、たいしたアピールにはならないし、消費者のほうもそれくらいではとうてい喜ばない。それが、「50人にひとり無料」といい換えるだけで、とたんにその広告が輝きを増してくるのである。
中国の故事の朝三暮四を思い出す。猿にやる餌を減らしたい飼い主が、どんぐりを朝3つ、暮れに4つやろうと提案すると、猿たちは少ないと怒ったが、朝4つ、暮れに3つやろうと言うと納得して喜んだという話である。
ついでにやってるさおだけ屋
ネタばらしをすれば、さおだけ屋はさおだけだけを売ってメシを食っているのではない。金物屋などの本業があって、その配達などのついでに、さおだけを売っているだけなのである。だから、売れても売れなくても問題ではないのだ。
同様に、郊外に位置する高級フランス料理屋が、なぜ潰れないのかという話もある。高級住宅街でもなければ、超人気店というわけでもない。いつも閑古鳥が鳴いている。調べてみると、実は料理教室で儲けていたのである。
「高級フランス料理店のシェフ(ソムリエ)が教える」というところに、お金を払う価値があるからだ。ここからいえることは、本業と副業はバラバラになっていてはいけない、お互いをつなげて考えろということだ。本業があるから副業が成り立ち、また逆に、副業があるから本業が成り立つ。これらが密接にリンクし合ってこそ、相乗効果が生まれる〜中略〜本業と副業をつなげる経営の考え方は、会計でいうならば、「連結経営」という考え方なのである。
私はこれを読んで、潰れないフランス料理屋の謎よりも、これからの生き方の重要なヒントを得た気がして、思わず声に出して唸ってしまった。そう、べつに○○一筋で生きる必要はなく、今あるもの、持っているものを器用に組み合わせ、価値を創出し、マネタイズすればいいのだと。
鉄道会社はむかしからその沿線に住宅地を作ったり、遊園地を作ったりして、自分の鉄道の利用者を増やそうとしているが、これはまさに連結経営の考え方だといえる。東急や小田急、名鉄、阪急、西鉄など全国の私鉄が路線の終点に百貨店を置いているのは、家族連れの運賃を期待しているからである。
これまた知らなかった。小田急の終点の新宿駅にある小田急百貨店はそういうことであったのかと。では、向ヶ丘遊園に昔あったという遊園地は目論見外れて潰れてしまったのか、どうか。
大局的視点に生きる
誰しもお金は貯めたいが、ケチケチするのは嫌なもの。何より心が荒む。貯めに貯めて、明日死んだらどうするんだという話である。
高い買い物をする際に、「101万円も100万円もたいして変わらないから、お店の人の勧めるほうでいいや」と考えてしまう。家の購入や結婚式の費用などでどんどん出費が増えていくのは、こういう背景があるからだろう。お店の人も、「家の購入は人生の一大イベントですから」「結婚式は一生に一度ですから」と勧めるので、なぜか「高くてもいいや」と思ってしまう。そんな人に限って、スーパーでの買い物で10円単位をケチったりするのだからおもしろい。こんなことをいうと、「毎日10円単位で節約することが大切なんだ。『チリも積もれば山となる』というだろう」というお叱りを頂戴しそうだ。しかし、毎日10円を節約しても1年間で3650円である。だったら、1年で一度1万円の節約をしたほうがはるかに効果的だ。
正直、こういう理詰めでものを言う人は嫌いだ。何より私は数字が苦手だ。しかしどう考えてもその通りで、少なくともこの本をいま、まだなんとか人生やり直せるかどうかという時に読めたことは幸運かもしれない。とかなんとか言って、お金が貯められる気も、人並みの人生が送れる気もしないのだが。
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