うちの子が、なぜ!―女子高生コンクリート詰め殺人事件 (佐瀬 稔/草思社)

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まず、鴻上尚史は偉い。難しいことを易しく説明できる、本当の頭の良さを持っている。心から尊敬する。

上下関係は年齢関係

日本では、「タメ」とか「ウエ」とか「シタ」とか言う。あらためて考えてみると、ものすごく意味不明なことではないだろうか。

相手に従うのは、相手が尊敬に値するからです。

これに付随して、だから敬語を使うのだとも書かれている。

自慢ではないが、というか、自慢になるかどうか知らないが、私は高校あたりの時分から、年下の人たちに自分には敬語なんか使わなくていいと言っていた。

まさにこの理屈で、尊敬できるなら自然に敬語が出てくるものだろうと思っていたからだ。いくら馬鹿でも、まさか神様に会って「おまえさあ」なんていう人はいないだろう。

ただ、その頃はそんなことを言っている自分に、頭の片隅で、どこか幼さを感じてもいた。つまり、自分の言動は、世間の常識に反抗するような意味合いしか持っていないのではないかというような。

世間という神

世間とは何か。それに類する本は、今までかなり、関心を持って読んできた方だと思う。しかし、世間の何たるかを今の今まで理解していなかった。

日本人は無宗教が多いと言われたりするのですが、かつて日本には、キリスト教やイスラム教の一神教と同じぐらい強力な「神様」がいました。それが、「世間」です。

これほど唸らされる読書体験もそうあるものではない。日本人にとっての神が世間だと考えると、日本人の行動の一切があまりにも鮮やかに理解されるのである。

たとえば町内会の集まりひとつとっても、それが西洋における一神教の神と同じなのだとすれば、確かにとても逆らえるものではない。

世間に逆らうことは天に唾することと同じで、嫌なことでも、面倒なことでも、しょせん一個の脆弱な人間、神に背いてまで、つまり命を賭してまで我を通そうとする愚か者はいないのは当然に過ぎることだろう。

世間に生きて、社会に死ぬ

現代とは、中途半端に世間が壊れている状況なのだと筆者は言う。

山を歩いていて、たまに人とすれ違うと、みんな「こんにちはー」と言います。ずっと一人で歩いていると、思わず声が出るのです。こういう、知らない「社会」の人との会話を、僕は「社会話」と呼んでいます。「社会話」は聞いたことがない言葉でしょう。僕が作った言葉です。でも、「世間話」は聞いたことがあるかもしれません。周りの大人たちがしているのは「世間話」です。

海外には世間はないと言われる。実際、先の引用で言えば、毎日が山登りの登山中のようなものである。

私はシンガポールとアメリカに計4年ほど住んだが、人々は目が合えば誰でもハローと言うし、そこから話し込むことも珍しくない。

だからと言って、彼らが人の人との結びつきを日本人よりも強く持っているのか、本当の意味で情が深く、フレンドリーであるのかと言えば、疑問だと言わなければならない。

それらはむしろ、日本で言う営業スマイルに近いものであって、そうであればこそ、彼ら/彼女らは爽やかで屈託がないのではないだろうか。

逆に、初対面こそ冷たくも感じられるが、いったん仲間として迎えると、日本人ほど情に厚く、他人に奉仕する民族もいないのではないだろうか。もちろん、そこにはもれなく「和」という同調圧力もついてくるのだが。

それで中途半端に世間が壊れている今、世間という仲間内で互いに得られる利得の量に比べて、同調圧力の強さが割に合わなくなってきている。そんな気がする。

     

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