天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々 (メイソン・カリー (著), 金原瑞人 (翻訳), 石田文子 (翻訳) /フィルムアート社)
購入価格:1466円
評価:
この記事は約2分24秒で読めます
アインシュタイン、デカルト、モーツァルトと、名だたる天才たちの日常生活が100人以上も紹介されている一冊。これだけ並べられれば、誰でも一つは「自分とそっくりだ!」と発見し、あるいは自分は天才かもしれないと思ってしまうこと請け合いだが、心配ない。それこそあなたが凡人だという証拠である。
天才の人生も世知辛い
我々は思い込んでいる。歴史に残るような仕事を為した人々には、それに全身全霊打ち込める恵まれた環境があったのだと。しかしそんなわけがない。彼らもまた時間とお金にもがき苦しんで生きたのだ。
たとえばカフカは、1912年に恋人に宛てて以下のような手紙を書いている。
「時間は足らず、体力は限られ、職場はぞっとするほど不快で、アパートはうるさい。快適でまともな暮らしが望めないなら、うまくごまかす技でも駆使して、なんとか切り抜けるしかない」
おお、私はカフカだ! おんなじだ! と興奮してしまう夢追い人は少なくないだろう。とりあえず私は今後、二言目には「カフカだってさ」とクダを巻くつもりである。
天職でさえ辛い
これまた人々は思い込んでいる。あの偉人やこの偉人、好きなことができて幸せだったろうと。そんなわけがあるものか。いくら好物でも三食365日食べれば吐き気をもよおして当然だ。
アメリカの小説家スタイロンは1954年に『パリス・レビュー』でこう語っている。
「正直にいって、書くことは苦痛だ」
また、彼は以下のように特にストイックな生活を自身に課しており、その苦痛はなおさらだったものと思われる。
コネチカットの小さな仕事場の壁には、フローベールの書いた有名な一節をずっと掛けている。「生活においてはブルジョワのように行儀よく規則を守れ。そうすれば、仕事においては暴力的で独創的になれる」。私はこれを信じている。
このフローベールの言葉には、深く同意する。さすがは名作ボヴァリー夫人を書いた偉人。私も常々、人生は普通が一番、異常なのは作品だけで十分だと思っていたのである。
マイペースに尽きる
100人以上も紹介されていると、共通点などが浮かび上がってきそうなものだが、どうしてセオリーのようなものは見当たらない。朝型の人も入れば夜型の人もいる。酒を飲みまくる人もいれば、まったく口にしない人もいる。散歩をしなければダメだという人もいれば、家から出ないという人もある。
デカルトは、優れた頭脳労働をするには、怠惰な時間が不可欠だと信じていて、ぜったいに働きすぎないように気をつけていた。
おそらく一般に思われているデカルトのイメージとは乖離しているが、結局、人なんてのはそれぞれ自分の世界があって、千差万別の生活のススメがあるものなのだろう。
最後に、この本からではないが、最近知って感銘を受けたチェーホフの言葉をひとつ。
「私にとって、医療は正妻であり文学は愛人だ。一方に飽きたら、もう一方と一夜を過ごすのだ」。
マルチ人間なんて言うと特別な人のようだが、ひとつのことだけやって生きられる人など、そういるものではなく、人はみなマルチにしか、つまり清濁併せ呑んでぐちゃぐちゃになって生きるしかないのかもしれない。
- 前の記事
- 男らしさの終焉
- 次の記事
- 「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる
ご支援のお願い
もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。
Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com
ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
-
読書記録
2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。
関連記事
明治・大正人の朝から晩まで
2021/05/05 book-review book, migrated-from-shintaku.co
肩肘はらずに読める本である。この手の本を、私はかつて「ごはん本」と呼んでいた。 ...
白い人・黄色い人
2021/07/12 book-review book, migrated-from-shintaku.co
白人女性とまぐわう中で、自分の肌の黄色い醜さ、白い肌を這う虫にようなおぞましさを ...
無伴奏
2016/04/12 book-review book, migrated-from-shintaku.co
映画を見て、図らずも小説も読みたくなり読んでみた、という新鮮な体験。これについて ...
宗教座談
2018/03/27 book-review book, migrated-from-shintaku.co, religion
内村先生のキリスト教観には非常に親近感を覚える。特に無教会主義という考え方には心 ...