現代美術のキーワード100 (暮沢 剛巳/筑摩書房)
購入価格:659円
評価:
この記事は約2分41秒で読めます
広島市内に位置する実家の、近所に住んでいた教員の方が書かれた本だそうで、母にすすめられて読んだ。
母曰く、著者は風変わりな方だったらしい。しかし、これだけの文章を情熱を持って書き上げられる方というのは、それはまあ、変わり者に違いないだろうと思う。
現在はAmazonはじめ、ネットの古書店でもまったく売っておらず廃盤のようだが、もしどこかで見かけた際はぜひ手にとってみてほしい一冊である。が、しかし、最後の最後が三文小説ばりの大団円で興ざめだったので星4つ。
戦争が長びくと、政府は国家総動員法をつくり戦争のためにあらゆる物資はすべて国へささげさせるように強要した。政府が必要とするものは民間から無条件でとりあげることができる、という法律である。家庭にある金具は使用しているものも出さされ、お寺の釣鐘もはずされて鉄砲の玉につくりかえられた。この法律はだんだんと拡大解釈されてついに辰夫の家のトラックも十台あるうち新しいのばかり三台がとりあげられた。1台2500円で買ったトラックが赤紙一枚とりあげられるのだ。
「この間秀子たち話しよったぜ、旋盤でけずりすぎて小さくなって、丸パスがストン、ストンと通ってしまったって言ってたぜ」「そりゃあそうよ、工業学校のわしらでもそんなに上手にいかんのに、あの大きな旋盤を女学生が使うんじゃ上手にできるはずがないよ」「そうよ、秀子や雪枝だけじゃない、どのメチ公(女学生のこと)も同じことよ」「それじゃここの工場の脚はみんなだめなんか」「なにかそうらしいぜ、工員の話じゃ、百本できても使えるのは二本か三本らしいぜ、それでそのオシャカ(不良品のこと)は八幡製鉄へ送ってまたつくりかえるらしい、ばかなことよ」
戦争が終り、天皇のために死ぬことを考えることは必要でなくなった。こんどはまったく逆に、生きること、自分のために生きることを考えねばならなかった。いままで抑圧されてはいたが、はりつめていた青春のエネルギーは、あたかもゴム風船につめられていた水がやぶれて地面にとび散った時のような、むなしさを感じていた。
- 前の記事
- ルポ 貧困大国アメリカ
- 次の記事
- 中国の故事・ことわざ
ご支援のお願い
もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。
Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com
ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
-
読書記録
2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。
関連記事
現代美術―アール・ヌーヴォーからポストモダンまで
2013/10/18 art migrated-from-shintaku.co
あの人はおかしいとか、なんとか、人は言う。しかし、その判断基準、ふりかざすモノサ ...
これがアメリカの現代アートだ
2013/07/13 art migrated-from-shintaku.co
この種の小説は「哲学コント」と呼ばれるらしいが、言い得て妙である。一見ばかばかし ...
アートにとって価値とは何か
2014/12/20 art book, migrated-from-shintaku.co
今の私にとって最大級の価値を持った本。最近親友にも言われたが、確かに、ミズマさん ...