アメリカの現代写真 (小久保彰/ちくま文庫)

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心理療法家としての実体験をもとにしており、下手なホラーなんかよりよっぽど怖いストーリーの数々は圧巻。人間という存在の根本を考えさせられる。

子供が精神科の診療に連れてこられたときには、その子供は「見なし患者」と呼ばれるのが通例となっている。この「見なし患者」という名称を用いることによってわれわれ心理療法医は、その子が患者と呼ばれるようになったのは、両親やほかの人たちがそういうラベルをはったからであって、治療の必要な人間はほかにいる、ということを言おうとしている (中略) 障害の診断を進めるうちに、その障害の源が当の子供自身にではなく、その子の両親、家族、学校、あるいは社会にある、ということを発見することが多い。もっと簡単な言い方をするならば、その子以上にその子の親のほうが病気だということが明らかになるのが普通である。

邪悪性は治療不能だとする考え方がある。治療法も、また治癒したケースも知られていないものを、なぜ病気と名づけるのかというわけである。医者の診療カバンのなかに若返りの万能薬が入っているというのであれば、老化を病気と呼ぶことにも十分な意味があるが、一般には、また、現状では、老化は病気とみなされていないではないか

私は16歳のときに、春休みを利用して4本の親知らずを全部抜いたことがある。抜歯後の5日間、私のあごは痛んだだけでなく、はれあがって口を開くこともできなかった。 (中略) その5日間というもの、私の心的機能の水準は3歳程度に低下していた。つまり、完全に自己中心的になっていたのである。泣きごとをいい、他人に当たりちらしていた (中略) 長期間――たとえば1週間程度――苦痛や不快な状態に置かれたことのある人ならば、このときの私の経験したことが思いあたるはずである。不快な状況に長期間置かれている人間は、当然のことながら、ほぼ不可避的に退行を示すものである。心理的成長が逆行し、成熟性が放棄されるのである。急激に幼児化し、より未開の状態に逆もどりする。

     

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