兄としてのわたし

最終更新: 2017/08/22

あからさまに身内話が増え、若干の羞恥心を感じる今日この頃。まあ、それはそれで人生の一部としていいではないか、ということで書く。

昨日の英会話後、妹とたまたま帰宅時間が合ったので、お好み焼きを食べに行くことになった。

たまたまなどと偶然を装っているが、その実、英会話のあと飲みに行きたいなあ、でも友達いないしなあ、ひとりで行こうかなあ、でもなあ、妹とでも行くかなあ(ぼくの職場から徒歩10分くらいのところで働いている)、でもそんな話すことないしなあ、と逡巡した挙句、とりあえず「もう帰った?」という様子見のメールを打っていて、そのメールの返信が来ただけなのであった。

というか、そもそもお好み焼きを食べに行くことになった、のではなく、妹は同僚とお好み焼きを食べに行く予定であり、しかし心の広い同僚が兄が居ても構わないということでお邪魔させていただいただけなのである。つまり、ぼくは完全にあんた誰的なお好み焼きツアーなのであった。

さて、あんた誰こと厚顔無恥の兄として訪れたのはお好み村。大学のときに樋口と行った以来な気がする。つまり10年近く前になるのではなかろうか。そのときの思い出としては、ぼくが店のおばちゃんに箸をくださいと言うと、「広島はコテで食べるんよ!」とどや顔で拒否されたことである。観光客じゃねーっ、ていう笑い話なのだが、今ではノスタルジックなセピア色でちょっぴり涙ぐむ話。

が、なあんだ、地元の人も行くんじゃないかということで、24歳独身女性(恋人有:結婚予定)、22歳独身女性(恋人有:結婚予定)、30歳独身男性(恋人無:留学予定)の三人は、いざお好み村に入村したのであった。

で、お好み村の中で際立って人気のお店に着席した。各々が、ビール及びお好み焼きなどを注文した。

それからしばらく、24歳独身女性(恋人有:結婚予定)と22歳独身女性(恋人有:結婚予定)の話をかたわらで聞くともなく聞いていた。すると不意に30歳独身男性(恋人無:留学予定)に24歳独身女性(恋人有:結婚予定)が22歳独身女性(恋人有:結婚予定)の恋人について男としてどう思うかという話を振ってきて、一通り話を聞いた。しかし、仕事熱心な営業マンらしいその恋人の振る舞いについて、画家か馬鹿かというぼくがまともなアドバイスをひねり出せるわけもなく、ほどなく終了して、そしてほどなくお好み焼きが出てきた。

30歳独身男性(恋人無:留学予定)はビールを飲みながら、お好み焼きを食べた。24歳独身女性(恋人有:結婚予定)と22歳独身女性(恋人有:結婚予定)は相変わらず何の話かはよくわからないが、とりあえずぼくの興味の無いネイルだとかアクセサリーだとかの話を続けていた。

店内にはテレビが据えつけてあったので、それを見るともなく見ていた。日本代表だかなんだかよくわからないが、野球をやっていた。3-0となって、それから6-0となったが、それはぼくの感情に一切なんの影響も与えなかった。

妹たちと反対側の隣では、馴染みと思われる男性客が、店員と軽口をたたきあっていた。

ミカちゃんはガールズバーで働いとって、それで出会ったんよ。

え、まじっすか?それ聞いてなかったっす。

しかしあいつもおかしいじゃろう。だって、女の子のほうの親は二人のこと反対しとったんじゃろう。それをおして、こっちで同棲はじめたわけじゃろうが。なのに堕ろす言うとるけえの。おかしいわ。同棲しとるんじゃけえ、何が起こってもおかしゅうないで。そりゃあ、できちゃったより、入籍して妊娠いう順番が一番ええじゃろうが、長い人生にそんな順番、屁でもないで。

今は安定してないけえ、仕事も軌道に乗っとらんけえて、バカ言え思うで。明日何が起こるかもわからんじゃろうが、明日病気するかもしれんわ、死ぬかもしれんわ。そんなら、今ええと思ったときにそうするのが一番ええに決まっとるじゃろう。

なんとなく、店のおっさんの話が理解できた。ああ、ほんとうに賢い人というのは、こういう市井のゴミ溜めみたいなところで、唾を飛ばして笑ったりタンを吐いたりしながら、しかし"まっとうな感覚で"、生きているのかなあ、なんてぼんやり思った。

食べ終わって、お会計をした。ぼくの性格を知っている妹が千円札をぼくに差し出してきたが、断った。断って、ぼくが三人分をまとめて払った。3,990円だった。

だって、この歳の差である、と言うのは建前で、ぼくは容赦なく年下だろうがなんだろうがおごらせて平気で笑える性格だが、それよりも現実的に、妹の最低な給料を知っている。その同僚は言わずもがなである。そしてぼくはその二倍はもらっているのである。というか今日のブログのネタにしようとも思ったのである。

表出する行為はいつもひとつだが、胸中はいつもひとつではない。常に混濁して、その混濁の中から、ひょいと、たったひとつの行為が現れる。しかも、表出したひとつの行為は、必ずしも混濁の中で一番多い気持ちとは限らない。しかし、それでも、表出したたったひとつの行為を、人は受け取って、人は何かしらを思う。

生まれて始めて、兄らしいことをしたなあと思った。そんな感慨もまた、胸中のひとつである。

何かしら思った方は、ちょっとひとこと、コメントを! 作者はとても喜びます。

わかりやすく投げ銭で気持ちを表明してみようという方は、天に徳を積めます!

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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