ぼくという乗り物
2015/07/03
自転車、原付、単車、もしくは自動車の助手席と、ぼくの人生は乗り物にあふれていたが、しかし上京を境にここ十年近くはもっぱら我が足が乗り物である(公共交通機関を除く)。
足は言うまでもなく人類最初の乗り物に違いないが、こうも文明の力が満ち満ちると、なんとじれったく、のろまでかったるいんだとも思ってしまう。
そんなことを思ったのは今朝、3ヶ月ほどの放置のすえにようやくで重い腰を上げ、早起きをして保健所へ調理師免許の申請に出かけたからである。保健所の所在地をgoogleマップで確認したところ、おそらく徒歩で20分程度ではないかと思われた。
8時10分前に家を出て、ぼくの中では開く時間きっかりの8時30分ごろには到着する予定であった。しかし、これが歩いても歩いてもいっこうに到着しない。タクシーに乗ろうかと思うくらいで、しかしそんなものには意地でも乗るぼくではない。しかしまったくもって遠い。普段は自分の女性的な面を誇っているが、この時ばかりは地図ぐらい読めろよバカ野郎と思わずにはいられなかった。
ぼくの早足ときたら競歩と大差ないのだが、それでもようやく到着したのは8時50分くらいであった。朝っぱらからやけに汗ばみ、我ながらとんだご足労である。
そして駆け込んだ受付のババア(ババアというような物言いはあまり好きではないが、今日のところはババアと呼ばせていただきたい)がまたとんだ曲者であった。
「調理師免許の申請をしたいのですが」
「え、調理師免許? 受付は12日からですよ?」
「は? いや、年中受け付けてると思いますが」
「あなた、電話かけてきた人? 12日からって伝えたでしょ?」
「いや、かけてません。調理師免許の申請です」
(ババア、他のババアと顔を見合わす。いかにも、なにこの人おかしいんだけど、という風に)
「あの、もしかしてテストの申請だと思ってるんですか? そうじゃなくて免許の申請なんですけど」
「ああ〜、はぁはぁ〜(ババア二人は顔を見合わせガッテン承知の助)」
おいババア、厚いのは化粧だけにしとけよという感じであったが、しかしまあ、卒業証明書、履修証明書、医師の診断書、住民票の写し、そして免許申請書に県証紙5.600円を貼付したものを提出し、無事に受理されたのであった。
しかし、すぐに交付されるものと思っていたのだが、交付は3〜4週間後とのこと。おかげで今日のブログ「調理師免許の無意味」は、あえなく断念せざるを得なかった次第である。
というか、今日のブログは我ながら実にブログっぽい内容だと思う。俗っぽいなァ、という感じ。しかし俗って、すごく楽だなあとも思う。
ふと思ったが、この世には古今東西、やたらとまめに日記をつける人間がいるが、誰にも公表せずによくもそんなに書けるよなと思う。それこそいったいなんのために? 人にさらしてなんぼじゃないの? え、人には言えない秘密を書き留めておきたいって? そんなもん、秘密なんだから脳みそにしまって墓場まで持っていけよと、ぼくなんかは思うのだが、たぶんそれはきっと少数派に違いないのだろう。それにつけても人間のことが、他人のことがよくわからない。自分のことだけはこんなにもよくわかるのだけど。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
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