麦酒礼賛

最終更新: 2017/08/22

「女の別れ際の一言とビールの一口目はあなたを評価する」

そう言ったのはぼくである。

ビールは一口目が一番うまいというのは酒飲みであれば誰でも知るところだが、しかし、いつもいつもうまいとは限らない。

たとえば二日酔いでほとんど一日中寝ていたような日の夜に飲むビールの味。それが贅沢なエビスだろうがキンキンに冷えていようが、まるでゴムの伸びきった白ブリーフのようなたるんだ味しかしない。

ひるがえって、一日を通して一生懸命がんばったと自分で自分を褒めてあげたくなるような日の夜のビールの味。アサヒでもキリンでもなく単なる発泡酒でも、あるいは第三種ビール風飲料であっても、ガツンと突き上げるのどごしがすごい。

おっさんだなんだと言われようが、それこそ「!!!!カハーッ!!!!」もしくは「!!!!!!!!ッ」となって、それから、目の前の笑笑のメニューの表紙のモンテローザグループ会長のイラストだろうが、四年近くつきあい倦怠期の恋人だろうが、なぜだか突然飲もうと誘ってきた仲がよくもない同僚だろうが、そろそろ介護のことも考えなきゃなという哀愁ただよう老親だろうが、もう、誰かれかまわず、「うまいッ!」もしくは「うまヒッ!」または「ィィィィィィィッッッッッうまいッ!」と、肩をバンバン叩いて(笑笑の場合はテーブルを)祝福して胴上げしたいような(笑笑の場合はテーブルを)気持ちにさせられる。

まったく、ビールは不思議な飲み物だと思う。

さて、わたくしの話をしよう。先月中旬から、さらには今週に入ってから、尋常ではないほどビールがうまい。かつてないうまさである。だいたい深夜11時半ごろに麒麟淡麗135ml缶(ほんとうに一口でよいのだ)を飲むのだが、思わず缶のラベルを二度見してしまうほどうまい。

原因はわかっている。これまた尋常ではなくがんばっているからである。朝6時すぎに起きて2時間ほど制作、仕事に行き帰宅後、さらに2時間半ほど制作し、それから夜ご飯兼朝ごはん兼お弁当の料理をしてから飲むビール。

うまい。何度も言うがほんとうにうまい。ついでに努力自慢をさせていただくが、フルタイムの仕事をこなしつつ一日4時間半の時間をコンスタントに勉強にしろなんにしろ建設的な行為に費やすのはそう簡単にできることではない。それこそ努力である。

というか、いまさら今年の抱負、年間の絵画制作時間1,000時間を有言実行させるには一日4時間半描かねば到達できないというだけで、つまり今年の前半にサボりすぎたしっぺ返しがきているだけではあるのだが、それにしても、である。もう自分で自分を褒めてあげたい。とはいえ基本的に四六時中自分を褒めそやしねぎらい誇ってはいるが、一日24時間を超えて、棺桶に片足を入れようと鬼籍に入ろうとも永遠にほめてあげたい、このすばらしき自分。自分が自分でよかった。自分大好き!

さあ、わたしには今夜もうまいビールが待っている。とりあえず、あと残り半年は、まずいビールはもう飲まない、から。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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