誰も要らない何も要らない

  2017/08/22

人生には嫌なことが多い。昨日など、胸糞が悪くてしかたがなかった。

絵を描き直すためにP100号の水張りを剥がし、水張りをし直してから他の絵を描こうと思ったが、あまりの気分の悪さに水張りをしただけで放り出してしまった。

あとは適当な炒め物を作ってから、酒を飲みながら本を読み、零時過ぎまでだらだらと過ごした。

酔いに身をまかせ、サマセット・モーム「人間の絆(中巻)」を読んでいると、思わず込み上げてくるほどに共感して落涙してしまう。

長いけれども、以下本書より引用。

フィリップは、自分を焼き尽くす情念にすすんで身を任せたわけではない。人間にかかわることはすべて一過性のものなので、この情念もいつの日か終わりが来ると信じていた。そして、その日の来るのを、切望していたのであった。この愛は心に宿った寄生虫のようなもので、彼の生血を吸って、いまわしくも生き続けている。生への意欲のすべてを独占しているので、彼はほかのことにはすっかり興味を失ってしまった。

〜中略〜

朝起きて、恋を忘れていることも、時にはあった。すると心が躍る。自由になれたと思ったのだ。もう誰も愛していないとは、すばらしい。しかし、まもなくはっきり目覚めると、痛みが心の底にずしんとすわっていて、まだ解放されていないのを知る。ミルドレッドを狂気のように愛している一方で、軽蔑もしていた。愛し、同時に軽蔑することほど、ひどい責苦はこの世に存在しうるかと思った。

引用終わり。

「ミルドレッドを狂気のように愛している一方で、軽蔑もしていた。愛し、同時に軽蔑することほど、ひどい責苦はこの世に存在しうるかと思った。」

ほんとそうだよなと思う。愛してると愛してるで何も問題ないなら、それほど簡単なことはない。

愛してる、けれども。この苦しみはほかにたとえようがない。

「人間にかかわることはすべて一過性のもの」

最近では、そう思うようにしている、というか、そうなった。何もかも、過ぎ去って、消え去ってしまう。

何もかも、取るに足りないこと。たいした問題ではない。つまらないことだ。この頭を悩ますべきようなことは何もない。くだらないことだ。

そう思うようにしている、というか、そうなった。ほんとは全然そうなっていないけれど、そういうことにしている。

だって、そうでもしないと、この日々のどうしようもない無味乾燥をやり過ごすことができない。

ああもう、なにもかも、みんな、くだらないことだ。そういうことにしている。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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