実家暮らしの是非

  2017/08/22

昨日、Yahoo!知恵袋でくだらない悩みを読んだ。というか、人の悩みなんて所詮ひとごとであって、十中八九くだらないものでしかないのだが。

実家暮らしの三十代男性のお悩みであった。会社の飲み会で、ある女の子がこう言った。「社会人になっても実家暮らしの男は不甲斐ないし頼りない」云々。

しかし質問主は、自分は家族と暮らすことを楽しんでいるし、家事などもしっかり手伝っている。実家暮らしだからといって料理のひとつもできないわけではない。それだのに、いったいなぜに実家暮らしというだけでこうも貶められねばならないのか。みなさんどうですか? 実家暮らしだと貯金もできるしいいですよね? ね? というような悩みであった。

まず、わたしの結論を述べたい。「どうでもいい」以上。自分の人生なんだから、自分が満足ならそれでいいんじゃないの?馬鹿なの? と。

しかしまあ、それではあまりにも素っ気ないので、ここ数年の所感を少々、というか、ねちねちと述べたい。

確かに、実家暮らしとひとり暮らしは相当に違う。ごはん、掃除、洗濯、あらゆることをひとりでこなさねばならない。寝坊して、ごはんを食べ散らかし服を脱ぎ散らかして出れば、当たり前だが帰ってきてもやっぱり同じように散らかったままである。誰も何もしてくれない。人間らしい生活を送るには、必ず自分がアクションを起こさねばならない。

たぶん、前出の女の子の発言はそういうことであろう。つまり、自分で自分のコンディションを保っていない。すべて人任せ。あなたのその服がきれいなのも、アイロンがかかっているのも、お風呂に入って清潔でいられるのも、そして健康でいられるのも、家族の働き(主に母)があってこそでしかない。いい歳して、なにお母さんにあれこれやってもらって生活してんの? 大丈夫なのあんた? というような。

そう考えると、調理師学校に通っていたときなど、ぼくもそんなふうなことをぼんやり感じていたことを思い出す。学校のコックコート(いかにも料理人なあの白い服です)は、洗濯をするたびに恐ろしくシワになる素材であった。そのシワのなり方や、少々いいだろうというレベルではないのだ。アイロンをかけなければ、目も当てられたものではない不潔感ずぼら感が漂う代物であった。

それで、ぼくもまあ仕方なくアイロンをかけていた。というか、このコックコートのせいで、生まれて初めてアイロンを買うはめになったのだ。

そうしてクラスメイトのコックコートのシワは、そのまま各人の生活を表しているようだった。実家暮らしの子はいつでも例外なくピシッとアイロンがかかっていたし、ひとり暮らしの子は、いつもぐちゃぐちゃでよれよれだったりした。ぼくはアイロンをかけているとはいえ適当なので、その中間くらいであった。

同じくひとり暮らしのクラスメイトとは、ほんとシワが伸びないよねこの服、なんて主婦みたいな会話をよくしたものである。その傍らで、実家暮らしの子がピシッとした服を着ていたりすると「まあ、子供に恥はかかせたくないのが親心だからね……」なんて、愚痴とも羨望ともつかないようなことをつぶやいてみたりもして。

その時の自分の心理を掘り下げてみると、別に実家暮らしは情けないだとかなんとかいう非難めいたものは一切なかった。なかったが、ぼんやりと、なんとはない違和感を感じてはいた。

ただ、先日実家に帰ってきて、いざその立場になると、なんとも言えない居心地の悪さ、気恥ずかしさを感じた。しかしこれは、あくまでもぼくは、である。別に実家暮らしだから云々と、非難されるようなものではない。事実、人にケチをつけるのが性分のぼくでさえ、一切非難めいたものを感じてはいなかったのだ。

たぶん、女性はただ単に、ひとり暮らしの男が好きなのだろう。それで、逆の実家暮らしの男を、あまり好きではないのだろう。

と、思う。最近、経験豊富な女性に、ひとり暮らしはもてますよ、なんてことを聞いたので、ぼくの結論はおそらくそれほど間違ってはいないだろう。よほど銭ゲバで貯金いくらあんの的な女性ではない限り、女性はひとり暮らしの男に惹かれる、ことになっている、のだと思う。って、なんて締まりの無い終わりかた。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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