いつもの、道楽としての居酒屋通い

  2016/04/08

書きかけになっている立川に行った話を続けたいところなのだが、時間の経過とともに自分の中で完全に死んだネタになってしまったので、もういいやということで終了したい。

とはいえ、気になるという方のために適当に箇条書きしておく。まず、あの日の行動においての重要なディティールが抜けていた。ぼくは携帯を持たずに家を出たのだった。それは、日がな携帯ばかりをいじっているぼくのような人間にとって、考えている以上に新鮮な行為であった。

その後、立川まで行って海鮮丼を食べ、ルミネで帽子を買って、府中に移動。府中市美術館に行って江戸の浮世絵だかの展示を見て、帰りに府中にあるギャラリーLOOPHOLEで展示を見て、それから居酒屋に行って、ビジネスホテルに一人泊まって非日常に浸ろうかとビジネスホテルに入ってみたが、表に出ていた看板の4000円は休憩の料金で、宿泊は6500円だと言われてなんなく諦めて谷保に戻った。そして、ダメ押しとばかりに軽い常連になっている喜楽に行き、ひとしきり飲んで帰って寝た。以上。

そして、性懲りもなく、昨日も居酒屋に行った。谷保にある居酒屋ふうちゃんである。ここは何回か訪れたことがあるのだが、先日読んだ「日本の居酒屋文化 赤提灯の魅力を探る/マイク・モラスキー著」に載っていたので、あらためて行ってみようと思ったのであった。

さて、ちょっと一杯のつもりが、ビール小と日本酒を4合ばかりも飲む結果となってしまった。いつものことではあるが、つくづくぼくはアルコールの魔力の前では葦以上の脆弱さである。しかしそれは考える葦である、ってやかましいわ。

それはともかく、酔いにまかせて、モラスキーさんのことを尋ねてみた。「ああ、モラさんね」と店主は答えた。おお、あの青い目の居酒屋依存症は、本当にしっかり来店していたのだなあと、ちょっと嬉しくなった。

しかし、「けどね、モラさん引っ越しちゃって」と言った。「東京にはいるらしいんだけどね」とも。

東京の、なんとかという島に引っ越したとのことだったのだが、その島の名前を失念してしまった。とはいえ、東京に島など数えるほどしかないのだから検討がつきそうなものだが、こと地理はさっぱりなぼくなので全然わからない。

ああ、国立界隈で飲み歩いていれば、いつかモラさんよろしくモラスキーさんに偶然同席することがあるのではなかろうかと淡く思っていたが、これで一気にその機会は遠ざかってしまった。残念至極である。

閑話休題。

どうでもいい話だが、頭にこびりついているので、昨日の出来事を書きたい。

国立の駅前にて、体格のよろしいバスケットボール選手のような黒人が、無駄にでかい犬を二匹、散歩させているのを見た。犬種でも書ければリアリティが増すのかもしれないが、ご存じの通りわたくしは根っからの犬嫌いであり、犬なんて生き物はどれもこれも犬畜生でしかないので、犬種などわかるはずがないのでご容赦いただきたい。

さて、黒人は「ウチ!ウチ!」あるいは、「ソト!ソト!」というような、奇妙な言葉を叫びながら犬に引っ張られていた。「ウチ!ウチ!ソト!アッ、ウチウチ!」

それはどうやら犬への呼びかけであり、つまり、犬の名前であるらしかった。しかし、英語の発音でも、知らない英単語というわけでもなさそうだった。しかしそのうち、黒人の呼びかけが変わった。

「ウチ!ウチウチ!ソト!ソトベンケイ!ウチ!ウチベンケイ!」

どう考えても「内弁慶」と「外弁慶」という日本の単語であった。おそらく、どこかで牛若丸と弁慶の話などを知って、「弁慶=かっこいい」という価値観を獲得してしまったのであろう。それはまあいいとしても、弁慶違いも甚だしいことこの上ない。

そんな日本人の一般的な感覚をよそに、黒人は最高にクールなネーミングの愛犬に引っ張られながら楽しげで、ラッパーのごとく、ヒートアップしていった。

「ソト!ソト!ソトベンケイ!ウチ!ウチ!ウチベンケイ!ウチ!ウチ!ソトベンケイ!ソトベンケイ!ウチベンケイ!ウチ!ウチ!ウチベンケイ!ソト!ソト!ウチベンケイ!」

くたびれた夜、おもしろくもなんともない、仕事からの帰り道の不意打ちである。このような場面に遭遇して、笑わないほうがどうかしていると思う。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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