ブラックアウトする精神

最終更新: 2016/04/08

先週の土曜日は会社が主催しているイベントに駆り出され休日出勤であった。で、その後は打ち上げがあり、飲み食いし放題であった。

二次会まで流れ込み、淡々と、というか延々と飲んだ。そうして最後のほうは記憶喪失、つまりブラックアウトである。

気づけばひとりで、路上で、たぶん5時半くらいの朝であった。そこが一体どこなのか、皆目検討がつかなかった。そしてまだ十分に酔っ払っていて、ふらふらしていた。仕方なく近くでタクシーを拾い、最寄駅を告げた。1メーターも走らないうちに到着した。

お金を払ってから降り、持ち物を確認すると、携帯がなかった。無い、無い、無いと、ポケットというポケットを探したが、やっぱり無かった。いったいどこで無くしたのか、どこまで持っていたのか、ブラックアウトしている身の上でそんなことはわかるはずも無かった。

普段ならおおいに焦るところだが、酔っ払っているのもあって、無いんだから仕方がないだろうという気になって、まあいいや帰ろうと思い歩き出した。

歩き出して数分後、たしか男性らしき人、警察ではないが、とにかくは男性らしき人物、というかこのあたりの記憶も相当に混濁しているのだが、呼び止められ、あなたの携帯ではないですかといってiPhoneを手渡された。

ああ、そうです、そうです。ありがとうございます。と言って受け取った。起動してみると確かにぼくのものであった。しかしなぜ彼が持っていたのか、どこで何がどうなってぼくのもとに戻ってきたのか、さっぱり、いまだにわからないが、とにかくは財布も携帯も無くすことなく家に辿り着くことができたのであった。

いや、ほんとうは、iPhoneが戻ってきて安心したぼくは、急に空腹を覚えた。それでコンビニに行って、カップラーメンとおにぎりを買った。その場でお湯を注ぎ、川沿いのベンチに向かった。相変わらず酔っ払っているので、川沿いに着くまでに、カップラーメンに注いだお湯がやたらとこぼれ、手にばっしゃばっしゃと飛び散った。熱っ、熱っ熱ぅッ、と、ひとり熱湯コマーシャルのようになりながら川沿いに行き、おおいに下品にずるずるもぐもぐ食べた。食べ散らかして帰った。

帰宅すると、そのままばったり死ぬように寝た。起きてから、ああ、相変わらずおれはクソだなあと、けっこうしみじみと思った。何歳だよおまえは、とも思ったが、まあ、そういう精神状態だからしょうがないわと開き治った。心の満ち足りなさが尋常ではないなあと、酒に逃避するくらいしか、対処方法は無いのだから、不憫な人間だなあ、おれはと、自分で自分に同情した。それから世の中の人間は全員クソだと思った。と言いつつ、最後まで一緒に居た同僚にご迷惑おかけしましたとLINEで謝っておいた。最終的に3人で飲んでいたのだが、上司ではなく年下と同い年だったことがせめてもの救いであった。

とりあえずシャワーを浴びた。シャンプーをすると、頭の側頭部あたりがひどく痛んだ。うっすらと、どこかで転んで頭をしたたか打ちつけた記憶が蘇った。

ブラックアウトは精神的なダメージもあるが、しかし、具体的な痛みのほうがよほどダメージは大きいなあと思った。いまも、じくじくと痛む。そのせいか、思考がどうもままならない。

芸術を志す者の大半は幼少のころに頭を打った経験があるというが、今さら打ちつけてどうこうなるとしたら、次は単なる無職かニートか廃人になる気がする。まあ、確かにけっこう廃人な気分ではある。ずうっと、何か、霧の中を歩いているような、ぼうっとした感じで、いろいろ、だいたい、ほとんどのことは、どうでもいいなあと、ぼんやりと虚しんでいる。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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