作家は得である

  2020/09/17

断っておくが、”徳”ではなく”得”である。英語でいうところのprofitである。

最近、ぼくが昔から常々思っていたことが、ずばり明文化されたサマセット・モームの言葉に出会ったので、まずはご一読いただきたい。

”作家にとっては人生は悲劇だが、創造の才のお陰で、アリストテレスが芸術の目的とした、憐憫と恐怖を洗い清めるという、あのカタルシスを享受できる。作家が経験した罪や悪行、降りかかる不幸、報いられぬ恋、肉体の欠陥、病気、貧困、希望の断念、悲哀、屈辱など、そのことごとくが彼の持つ力によって作品の素材となり、書くことによって作家はこれらを克服できるのである。バラの芳香から友人の死まで、ありとあらゆるものが作家には役立つ。身に降りかかるすべてを、詩、歌、物語に変容させる。変容すれば、それを心から追い払うことができる。芸術家は唯一の自由人である。”
(サミング・アップより)

親に虐待される、拉致・監禁される、暴行される、冤罪で逮捕される、事故か何かで不具の人となる、エトセトラエトセトラ。

いつの時代にもある、かような不幸が降りかかった人たちの身上に思いをはせる時、ぼくはいつも次のように思う。

「何かしらの表現をする人以外にとっては、そういう経験はトラウマでしかないし不幸でしかない」

物書きでもいいし画家でもいいし、とにかくは表現する人。表現する人にとっては、すべてが”おいしいネタ”になる。

心底そのように思っていた。そこのところへ、私の中で尊敬度が急上昇中のサマセット・モームがまさに指摘していたのである。流石はモーム先生、恐るべしである。

だから、ぼくは自分の身の上にさまざまな不幸や災難があっても、どこか(おいしいなあ)と思っている節があって、おそらくはその感覚が、社会的身分としてはごく普通のサラリーマンではあるにも関わらず、その他大勢とはどこか異質な、普通ではない、つまり変わり者だという線引きがなされているのだろうと思う。思っている。文句あっか。

閑話休題。

私事で恐縮ですが、というか、そもそもここに私事以外を書いた例はありませんが、今年の9月に個展をさせていただく高知県の沢マンギャラリーの広報誌にアートコラムを連載させていただくことになりました。沢マンギャラリーでもプリントして配布しているそうですが、下記URLにてPDFでもご覧いただけます。

【沢マン通信 vol.1】
http://sawaman-room38.com/web/sawaman1.pdf

しかし、「書かせていただいた」というより「書き散らした」というほうが正しい。流石にこれでいいのかと若干の不安を感じる。しかも空回ってる感も否めない。が、まあ、じきに馴染んでいくでしょう。たぶん。

それはさておき、このような機会を得たのは、沢マンギャラリー代表の岡本明才さんが当ブログを見て、新宅さんの文章おもろいからなんか書いてよというお声掛けをいただき、では拙文をば少々、ということになった次第。

いつの間にやら当ブログも今年で3年目になりましたが、苦しくとも悲しくともだるくともめんどくさとも、勝手な義務感を見繕って、むりやりにでも続けてみるものです。

最近では、初めて出会った人からも、twitterかfacebookかで辿ったらしく、しばしばブログ読んでます面白いですと言われ、初対面なのに初対面ではないという圧倒的な親近感、えも言われぬ幸福感をしばしば味わったりしている。

それはいわずもがな、当ブログを公開する意味の理想である「新宅睦仁説明書」の機能を果たしているということの何よりの証拠であり、作家冥利に尽きるとはこのことである。って、一介のサラリーマンでしかないが。今後もひとつ、愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

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    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

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