人間関係の苦労を知らない人

最終更新: 2017/08/22

冬は寒い。最近はことに寒い。つい布団の中でぐずぐずしてしまう。三時半に目覚ましをかけていたのに四時半に起きる。

朝ごはんを食べお弁当を作り絵を描いて、それからランニングに出かけた。

最初は背丈が縮むほどの寒さだったのだが、じきに汗ばみ暑くなる。

いつものコースを走り、折り返し、多摩川にかかる橋を渡るとき、川面に白いサギが十羽ばかり、たむろしているのを見た。

ちょうど冗談みたいに黄金の太陽が昇りはじめていて、白いサギの影が、川面にやけにはっきりと黒く落ちていた。それで、一句思いついた。

白いサギ 黒いカラスも 同じ影

なんだか、ひとつの真理を見たような気がした。大袈裟に言えば森羅万象とでも言おうか、結局のところ、善も悪も、美も醜も、すべて等しく、ただただ存在しているだけなんだよなあと。

そしてまたぼくも、同じ影を落としていて、何ら変わらない存在でしかない。意味もくそもない。存在している。ただそれだけ。

話は変わるが、いま読んでいる本に、わたしは人間関係をできる限りシンプルにしたいのだ、というような話があった。大学教授である著者は、だから、教え子に仲人などを頼まれても一切出ないことにしているという。

別に仲人というシステムが悪いとか、人間が嫌いだとかいうことじゃない。ただ、やたらと人間関係を増やし、付き合いを広げていけば、本当に大事な人たちとの時間が削られるのは必然である。

だから私は、人間関係をシンプルにすることで、大事な人たちとの時間はもとより、人間関係の苦労などを最小限にしているのである。

というような話であった。

なるほどと思うと同時に、大きな共感と気づきがあった。つまり、はからずもぼくの生き方はこの教授と同じく「人間関係をシンプルにしている」に違いないのであった(この教授も自分は生来我儘な人間だと言っている)。

嫌いな人とは付き合わない。話したくない人とは話さない。やりたくないことはやらない。

ぼくはそれが当たり前だと思っている。しかしよくよく考えてみれば、そうすることによって、ぼくは自然と人間関係の苦労を回避してきたんだと気が付いた。というか、人間関係で苦労した記憶がない(恋愛は別として)。

無理にうまくやろうとするから疲れるのだ。放っておけばよいではないか。無理をしなければ人間関係が成立しないような人間は、そもそも自分にとって要らない人間だろうとぼくは思うのだが、おそらく、世間には人間関係で悩んでいる人がかくも多い、と思われる。

たぶんぼくは、よくも悪くも浮世離れしているのだが、しかし、くだらないことで悩まない性格でよかったと思う。だって、自分が大事だと思えることに全力で時間と労力をかけることができる。って、あ、やっぱりまた自分は素晴らしいという結論に至ってしまった。いつもごめん。口先だけだが。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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