かすみを食って、あの世では。

昨日も食って、今日も食い、来る日も来る日も何かしらを食っている、われわれは。

いつまで食うんだろう? そう考えると、ときに馬鹿馬鹿しくなって、うんざりする。ロマンも糞もあったもんじゃない。

逆に言えば、死はロマンである。食わないですむし、むろん、糞もひらないから、美しい。

友人の訃報に接して、なぜだかそんなことを思った。彼女はうまそうに飯を食う人だったからかもしれない。

それにしても、ほとんど悲しみを感じないのはなぜだろうか。親友というほどではないが、ひところは毎日のように顔を会わせていた。

しかし、もう何年も会っていない。だからこれは、それが何十年か延長されただけ、あの世に行くまで会えなくなったに過ぎないともいえる。

あの世なるものを積極的に信じているわけではないが、少なくとも、現世で会えることだけはもう絶対にないのだから、再会の可能性があるとすればあの世しかないだろう。

それで彼女は、いまごろ何を食っているだろうかと思いをはせる。たぶん、彼女は「かすみ」を食っている。

それはまさしくこの世ならぬ食べもので、言うまでもなく糞とは無縁の美しい代物だ。

と、この世からすれば「かすみ」そのものになってしまったような彼女が「かすみ」を食う姿がありありと浮かんでくる。それは透明と透明で、すばらしい透明で。

それをまねて「かすみ」を食おうとして私は、悲しいことに気がついた。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  関連記事

愉悦の居酒屋

2013/08/29   エッセイ, 日常

居酒屋が好きだ。 もう一度言う。居酒屋が好きだ。 最近、節約もなにもなく居酒屋に ...

重ね合わせて結婚式

2008/09/21   エッセイ

いろいろ書くことがある気がする。なぜならいろいろ思ったから。 友達の結婚式は、そ ...

ぼくのスニーカー

2009/01/29   エッセイ

っっもう、今日のタイトルっつったら終わってるね。まったく小学生以下のセンスだよ。 ...

月例報告:6月

2013/07/01   エッセイ, 日常

ようやく自信を持って描いた時間を記録できるモチベーションがやってきた。このまま死 ...

なぜ人は寝過ごしてしまうのか

2012/06/14   エッセイ, 日常

画像はいまさらなカクテルの授業。が、なんかいまいち興味が持てなかった。まあ、なん ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2025 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.