あなたの存在意義

祖母がオレオを食べている。それは三時のおやつで、しかし入れ歯には固く、難儀そうに見える。

あんたは誰かと聞かれる。答えるも、そこには会話と呼べるような手応えがない。

似たような人が、周りに五人六人ばかり座っている。みな一様に生気がない。

もそもそ、あるいはぺちゃぺちゃと、それぞれオレオを食べている。職員に口まで運んでもらっている者もある。

何が悲しくて生きているのだろうかと思う。彼らに生きている価値なんてあるんだろうか。

帰りの車内で母が言う。ああなったらおしまいよと。ああなってまで生きたくない、とも。

完全に同意しつつも、私は全力で探さずにはいられない。彼らの価値を、その存在意義を。

それは昨日のことで、今も懸命に探しているが見つけることができない。

かつては、その種の人はさっさと死んだ方がいいということで納得できたものだった。しかし今は、その安易さが恐ろしい。

そこには、私自身の価値がさも自明であるかのような傲慢さがある。何かしら有用なモノ・コトを生産しさえすれば価値があると信じるのは、現代の病理だろうと思う。

実際、我々の信じる価値などというものは、いつでも吹けば飛ぶようなものであろう。

それはわかっている、わかってはいるのだけれど、いま、あの祖母にはなんの存在意義があって、どんな価値があるのか、私には見つけることができないでいる。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  関連記事

説得力のない看板

2009/06/17   エッセイ

だとは思いませんか? まずおめー自身をキレイにしろよ、とか思って写メしておいた。 ...

「LIFE feat 吉野屋牛丼並盛」コンセプトメモ

人間のもっとも強力な本能は「生きようとすること」である。 生きるためには、なによ ...

そんなこんなで制作は続く

2009/02/12   エッセイ

昨日は次の作品にようやくで取りかかった。 もっと早く起きて作業する予定だったんだ ...

変わらない欲求

2008/10/09   エッセイ

たぶん書くだろうなーそろそろ書くんだろうなーと思っていた、のはノーベル賞。 予測 ...

出会いと別れのくりかえし

2014/01/03   エッセイ, 日常

昨日、ひさしぶりに会った友人――ここでは仮にYさんとする――が離婚することになっ ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2025 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.