ほぼエッセイ、ときどき現代の美術とアート。

2年間のシンガポールでの生活を終えて

このたび、丸2年のシンガポールでの生活を終え、日本に帰国する運びとなりました。

理由はいくつかありますが、第一に就労ビザが切れること。2年前に比べると大幅に基準が引き上げられており、一筋縄ではいかないのが実情です。

特に、ビザ取得のための最低給与基準が、2年前に比べ約1.5倍に引き上げられました。例えば、前回30万円の月給でビザを受けた人であれば、次回更新時は45万円以上でなければ取得できないということです。

ちなみに、30万円というのはほとんど最低ラインで、シンガポールで働いている日本人であれば、それ以上で勤めているのが普通です。しかしその金額に、たいていの人は驚きます。日本人は、どうして日本以外のアジア全体を「舐めて」というか、「見下し」ているようなところがあるので、そのような事実は知っておいて損はないのではないかと思います。

つまり、そのくらいの給与を得られる高度な人材以外はいらないという、シンガポール政府の明確なメッセージなわけです。最近、日本における外国人実習生の奴隷のような労働環境が取りざたされていますが、それとは真逆の方針と言えるでしょう。

外国で外国人として働くとはどういうことか——それを身を持って知ると、私はシンガポール政府の方針にリスペクトせざるを得ません。

私程度の能力の人間はシンガポールにはごろごろいる。だからこそ、私がシンガポール人と同じ給与水準で雇われてしまえば、彼らの仕事を奪うことになる。だからビザの基準を厳格化して、凡庸な外国人にはお引き取りいただく。小学生でもわかる理屈だと思います。

自国民の仕事を守るとは、そういうことでしょう。考えてもみてください。時給300円で身を粉にして働くベトナム人と、時給700円でそこそこ働く日本人と、企業はどちらを使うでしょうか。利益を最大化することを至上命題とする資本主義社会においては自明です。

あるいは、企業が外国人に対する劣悪な労働条件を「スタンダード」として、日本人にも適用しない保証はない。そうでなくとも、日本人はそのような外国人と戦わなければならない。誰が勝てるでしょうか。笑うのは誰でしょうか。

どうも話が辛気臭くなってしまいました。アートの話をしましょう。

そもそも、私が外国に行こうと思ったのは思いつきです。日本では、99%のアーティストが別に働きながら制作活動をしている。アートとは無関係の賃労働を、やりたくてやっているアーティストはいないでしょう。私もその一人です。だから、どうせ働かなければならないのなら、外国に行った方が「マシ」なのではないか。そういう発想でした。

だから、外国ならどこでもよかった。深い考えもなく、ベトナム、タイ、シンガポールあたりの現地企業に複数応募したところ、たまたまシンガポールで内定を得た。先のビザの基準を考えれば、いま同じことをやろうとしてもまず不可能でしょうから、偶然もいいところです。

なんにしろ、結果は大正解だったと思います。英語力が向上し、異文化に触発され、世界の見え方がまるで違っている。

幸か不幸か、シンガポールは経済を至上とする国なので、アーティストとして長期滞在するような人は皆無です。だからこそ私のようなタイプの人間は珍しく、それがポテンシャルとなって、個展の開催やアートフェアへの参加という結果に繋がったのではないか。

こう、振り返ってみると、たった2年とはいえ、素直にやれることはやったという気持ちになります。少なくともシンガポールにおいては。

それで、今後はまた別の国、もっと大きなアートシーンのある国に行きたい。そう考えて、すでに動き始めてはいますが、どんな人間が大統領かでビザが出たり出なかったりするような世界なので、それこそ運かもしれません。

というわけで、どのくらい日本に滞在することになるのか、これからどこへ行くのか、まったく不透明です。しかし、いまだ日本ではないどこかに身を置いていたいという欲求だけは確かにあるので、その自分の気持ちにつき従って生きていくつもりではいます。

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