第24回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)応募プラン公開
2020/10/31
第23回岡本太郎現代芸術賞に落選した――と書いてから、ほとんど丸一年が経つ。(参考記事:岡本太郎現代芸術賞落選者の遠吠え)
すでにご存じの方にはくどいようだが、私はその、愛憎相半ばするTARO賞に10年以上も応募し続けて、昨年に至っては歴史に残るべき最高傑作でなお落選となり、しかしそれでも懲りずに今年も挑戦するというのがこの記事の趣旨である。
その間、米国ロサンゼルスで暮らす私には、コロナの影響で数ヶ月も自宅軟禁、今月末に帰国しても14日間は一切の公共交通機関(航空機の国内線乗り継ぎ含む)に乗れないので地元まで帰れず自腹でホテルを押さえてまた軟禁など、まったくもってろくなことがなかった。
そもそも人生なんてろくなものではない。悪いことは言わない。これから生まれてくる子供たちには強く再考をおすすめする。生まれてから後悔しても遅いのだ。
前置きはさておき、今年は完全に趣向も方向性も変えた。まず、私個人の応募プランを、公募の受付締め切り日を待たず、ここに一般公開する。
また、私は美術大学と調理師専門学校で学んだ経験から、一貫して食をテーマに絵画というメディアをベースとして制作に取り組んできたが、今回はパフォーマンスという手法を選択した。
なお、ここに公開するプランは、2020年9月13日の日曜日4:26(JST)、WEBによる第24回岡本太郎現代芸術賞への応募がすでに完了している。
そして以下が、応募資料一式の原本である。
Illustration by Arisa Yamamoto
本作の肝は、『事前に一般公募によってデスクワーク(WEBデザイン関連業務)の依頼を受け付け、1時間あたり米一合の対価で労働』するという点である。
このようなプランに至った理由は三つある。
1.私はアーティストではなくWEBデザイナー
昨年の落選を受けて、私は深く悩んだ。私には才能がないのではというお決まりの苦悩はもちろん、そもそも私は本当にアーティストなのだろうかということも考えた。
かつてナチスの強制収容所では、収容者の職能や来歴が調べ上げられ、分類されたという。つまり、その人間は何ができて、何の役に立つのかが記録されたのである。
私ならば何に分類されるだろうか。たぶん、私がいくらアーティストだと主張しても、私はWEBデザイナーとして収容されるのではないか。
現代、人を測る上でもっとも強力で信頼されているモノサシは金銭である。私は過去十年ほどの間に、WEBデザイナーとして働き4000万近く稼いできたが、アーティストとしてはせいぜい100万かそこらである。それだけでもう、私が何者であるのかは明らかなのではないだろうか。
2.誰もやらないことをやりたい
今回の応募資料公開に当たり、少なくとも昨年公開した、ロサンゼルスのホームレスら100人とハンバーガーをかじり合って作り上げたプラン、100 BITE CHALLENGE(岡本太郎現代芸術賞落選者の遠吠え参照)を超えるものを呈示しなければならないというプレッシャーがあった。
この一年足らずの間に、いまだ収束しないコロナウイルスのパンデミックが発生した。それを即座に作品として消化して昇華し、コロナ禍の最中にも関わらず、ふたたびホームレスとハンバーガーをかじり合った最新作は注目に値するだろうという自負はある。(ONE BITE CHALLENGE AFTER CORONAVIRUS (COVID-19)シリーズ参照)
しかし、これまでの経緯を知っている人なら誰でも、今年は当然そのネタで来るだろうと思っているはずだ。つまり完全に手の内を読まれている。それはあまり愉快なことではない。
もっと、オーディエンスがどう思うかはさておき、私自身にとっても、状況は違えど本質的には昨年の焼き直しのようなことをやって、本当に面白く、情熱をもって取り組めるのだろうか。
私はいまだかつて誰もやったことがないことをやりたいと思った。現代、誰もやらないこと、やりたがらないことを考えた。そして気がついた。それはタダ働きではないか。
つまり、プロのWEBデザイナーが時給45円(一般的な米一合あたりの価格)そこらで働くなどというのはタダ働きと同じであって、そうであればこそ、このパフォーマンスが特異なものとなる。
実際、企業内で働いている時の私を使おうと思えば、1時間あたり10,000円前後かかることを考えれば、9,955円引きと同じである。このような常軌を逸した値引きがされた物品やサービスのことを、世間ではタダ同然と言う。
あえてそのような設定をすることによって、私を含め現代社会に生きるすべての人にとって最も重要で悩ましい問題である労働の意味――生理的欲求として食べるために働くのか、生計を立てるために働くのか、あるいは両方か、それとも別のもっと何か――を、深い次元で問うことができるのではないだろうか。
これは何らかの労働者であろう大半の鑑賞者に対する問いであると同時に、長年アーティスト業と賃労働の板挟みに苦しんできた私自身への真摯な問いかけでもある。
3.アートとビジネスを接続する必要性
私がここ数年感じていたのは、アーティストとして活動する者にとって主たる活動の場であるグループ展や個展の不毛さである。
時間も金も睡眠も惜しみなくつぎ込んで、文字通り全精力あるいは全存在を賭けて開催するそれらは、ほとんどの場合、わずかな期間アーティストに高揚感を与えて、SNS上でいくばくかの華やいだやり取りをすればもう、あとはタンスの肥やしとなるばかりで1円にもならない。
それはもちろん、私を含め売れないアーティストの話ではある。ちゃんと売れているアーティストがいるのは知っているし、わかっている。
だが、何はともあれ、人気があろうがなかろうが、皆、否が応でも生きていかなければならない。日本は現代美術の後進国で、アートを買うという文化が未だ根付いておらず云々とかいう言説は聞き飽きた。
私は思う。もしかすると、アーティストの方が間違っているのではないか。絵画に固執し、彫刻に固執し、あるいは展覧会という形式に固執し、とにかくは何かそういう時代も時流も無視した古典的なビジュツにこだわってやり続け、挙句の果てに「食えない!」と叫ぶ。
馬鹿なんじゃないか。実際、馬鹿なんだろう。しかし本物の馬鹿でも、馬鹿にされ続けて面白いわけがない。アーティストは食えないと諦めて卑屈に笑ったり、逆にアートはそういうものだと開き直って達観した風を装うのはもう、うんざりだ。
だから私は、アートを直接的に自分の持つ換金可能な職能であるWEBデザインを駆使してビジネスに接続してやろうと考えた。
それで今回、SHINTAKU。(https://shintaku.co)というWEBデザインを主業務とする個人事業を立ち上げた。この作品を作ることは、私にとって創業でもある。これが将来、一端の会社になったら面白い。その会社では、仕事のことをアートと呼ぶ。ディズニーランドで従業員がキャストと呼ばれるのと大差ない。
ともあれ、今回の作品プランの制作に当たっては、仕事を請け負わなければ始まらない。以下に募集の概要をまとめる。
現代アート作品「現代労働 / Contemporary Work」に係るWEBデザイン関連業務の募集概要
- 応募受付期間
- 2020年9月13日(日)~2020年10月14日(水)17:00(JST) 応募受付は終了いたしました。
- 募集内容
- 新規WEBサイトのデザイン・制作、既存WEBサイトのリニューアル・修正・更新、WEBサイト高速化・読み込みスピード改善、アクセス解析、SEO対策など、WEBデザイン関連業務全般の業務依頼
- 応募資格
- 新宅睦仁と一切の縁故関係、利害関係のない20歳以上の個人または団体(営利企業含む)。基本的なPCまたはスマートフォン等の電子機器の操作が可能で、EメールまたはLINE等を通じてやり取りが行える方。
- 応募費用
- 無料
- 採択された場合の料金
- 作業工数1時間あたり: 米一合
- 結果発表
- 2020年10月31日(土)12:00(JST)
なお、私はこれを作品制作の一環として行うが、すべての案件に用いるWEB開発の技術や成果物のクオリティは、実際に正規の料金で請け負う場合と同じである。現代美術作品だからというエクスキューズは一切ない。
そのため、ここからはアーティストとしての物言いではなく、一般社会でサービス提供者がお客様に接する際同様、慇懃無礼なですます調で話を進める、否、進めさせていただきます。
更なる詳細及び応募につきましては、以下ページにてご確認いただけます。ご不明点等ございましたら、info@shintaku.coまでお気軽にお問い合わせください。何卒よろしくお願い申し上げます。
第24回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)応募プランに係るWEBデザイン関連業務の募集
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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