白木屋で酒を飲むおひとりさま

  2019/10/12

つまり、どこにも行きたくない-F1001069.jpg

昨日はかなり久しぶりな一人飲み(1年ぶりぐらい)。@白木屋。

家に帰って一人で飲めばいいじゃんという感じだけれど、居酒屋には「大衆の中での孤独」というものがあり、僕はそれがけっこう好きだ。だからチェーン店にゆく。一人で行ける個人経営の居酒屋もあるが、そこだと話しかけられる場合があっていけない。あくまでもたんたんとチャンジャや漬け物盛り合わせや鶏軟骨を機械的に運んでくるチェーン店にこそ「大衆の中での孤独」はある。

一人で飲むと、特にすることはない。あるとすればグラスをいじったり、軟骨の表面をじっと見つめたりするだけだ。で、そんな行為をしつつ「毎日ってなんだろう」「おれってやつは一体なにを考えているんだろう」「どう生きるのがベストなのだろう」なんていかにもなことに考えを巡らせて、巡らせてたら一人で焼酎のボトルを一本開けてしまっていて(20度、500ミリ)、酔っ払っていた。

しかし人と飲む時と違って、頭のどこかしらが妙に冷静で、ハイテンションではなくミドルテンションで、いやむしろテンションは低くて、それに尖っていて、たぶんそれは頭の中でたくさんの言葉が出口なく(話し相手なく)さまよい続けたせいで、いつしかバターみたくどろどろになって、言葉ではない何かになってしまい、「この感じ!」「そんな感じ!」「あれだよ!あんな感じだよ!」とかいう、およそ他人には伝わりにくい雰囲気とかニュアンスなどと呼ばれるものになって、そんな曖昧なものは伝わらなくて、はがゆくなって、尖ってしまうんだろうと思う。って、詩的に過ぎる。ほんとは悩みごとがあってもやもやしてただけ、だからこそひとりで飲みに行きたい気分になったのだ。

とりあえずは自分と向き合えた、気がする。昨日のは、ひとり飲みで良かったのだ、なんて思う。

それにしても大学時代がなつかしい。一応の社会人になってからというもの、毎日が恐ろしい慌ただしさで過ぎ去っていくために、往々にして自分自身を省みること対話することを忘れがち、怠りがちだ。

でも、その慌ただしさの中、悩みは激減している。大学生の時に比べたら皆無に近い。きっと「小人閑居して悪事をなす」というやつで、暇だったからいろいろ悩んでたんだろう。おそらく、悩みが先ではなく、暇こそが先にあったのだ。

で、忙しくなった僕は悩まなくなって、つまり、僕は小人であったのだなあ、と。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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