気分のままに生き流れ
2017/08/22
最近、風になりたい。
別に千の風になってあの人の頬をなでたいとか、そういう安いロマンチシズムではない。
なんとなく、風になりたい。というのはまったくのウソで、昨日も書いてないからなんかしらを書かなきゃぼくのファンが、ファンが泣いてしまう!と、何も言いたいことがないのだけれど、なんか適当に切り出せばなんとかなるだろうという書き出しである。
最近、居酒屋に行きたい。
これは本当であり本音である。家に帰って自炊し安酒をあおれば、そりゃまあお安くつくことは明らかなんですけどね、こう、お店でお酒を傾けたいんですよ。
だって、居酒屋って、ただもうそこにいるだけで楽しい気分になる。満ち足りた気分になる。ぼくにとってそこは、さながら遊園地かテーマパークか、とにかくは心躍る場所なのである。
もう明日死んじゃうかもしれないから、無い金を振り絞って行こう!と思う。行こうとして、しかし待てよと、冷静に財布を見る。5000円しかない。これは銀行から下ろしていないとかではなくて、今月末までの生活費のすべてなのである。5000円。
飲みに行けば3000円は軽い。しかし飲みたい。欲求がつのる。飲みたい。ええい、金のことなんか知るか!宵越しの金はなんとかや!江戸っ子でもなんでもないけど。
飲みに行く。気心の知れた友達がいればいうことはないが、ひとり黙って静かに飲むのもまた一興である。(というかそもそも、一人で飲むという選択肢しかないからそうするまでであって、なんにつけても選択できないということは悲しいものだと思う。もっと言えば、たとえばほんとにモテない人で、相手を"選べない"とかいうのは、ほんとうに、ほんとうに悲しいことだ。そう、選択こそ豊かさの最たるものだ)。
居酒屋ののれをくぐると、まず、突出しが出てくる。大手ブラックチェーン店であれば、冷えたミートボールだとか、やっつけの枝豆だとか、よくわからない魚介類にトビッコの混ざったマヨネーズっぽいものが過剰にまとわりついたサラダなどが出てくる。
それをちょいと舐めながら、まずはビールを待つ。ほどなく来る。
一口目が重要である。心して、ちょっと息を止めて、さあ至福の時。ぷはあっとやる。うまいな!と誰かに言いたいが、それは胸の中にしまっておく。別に後生大事にしまっておくほどのものではないが、しまっておく。
まあ、引き出すのはせいぜいが次の朝、昨夜を思い出して(うまかったな)と思いくらいのものである。
そして肉とか、魚とか、少しメインらしいものを頼む。それらはちょっと出てくるのが遅いので、そのころにはビールが3分の1程度まで目減りしている。でも、意地でも飲み切ったりしない。
その肉だか魚だかと一緒にビールが飲みたいのだ。
で、ビールが空けば、あとは焼酎でもワインでも、酒は単なるアルコールとなって、延々とわが身に注ぎ込まれる。
まだ9時かあ、なんて思っていたのが、いつの間にか11時を回っていたりする。酒はまことに時間を暴力的に短縮する。
あたりの客がはけてくる。店の人もこそこそと片付けはじめ、早く帰れよ的な雰囲気が漂いはじめる。
粘って迷惑をかけてもしょうがないので、頃合いを見計らって、すいません、お会計お願いしますと、ぼくは言う。
ひとり静かに帰路につく。
月がきれいだなあなんて思うこともあるし、ただひたすらにさびしいなあと思うこともある。昔のことを思いだすこともあるし、あの人に会いたいなあと思うこともある。妙に気持ちが沈んできて、家に帰ってもっともっと泥酔しようと思うこともある。
ただ、酩酊の感覚それ自体が、やさしくも力強くもないが漠然と、わが身の不遇と不幸とやるせなさをなぐさめてくれる、ような気がする。だから、感謝している。お酒に。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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