料理は私のためならず

  2017/08/22

「情けは人のためならず」ということわざをもじろうと思ったのだが、「人」の対義語としてスマートかつ分かり良い単語が見つからなかった。

「我」では堅苦しいし、「自己」では精神までも含んだ存在としての自分という意味合いが強いし、「自分」では幼稚な感じがする。言うまでもなく、「僕」や「俺」などは論外である。

というわけで、ほとんど苦肉の策として「私」ということにしておいた。

はいすいません、前置きが長い。

さて、昨夜は料理に励んだ。土曜の夜にホームパーティよろしく宅飲みをするので、そのための煮込み系料理を作ったのである。

メニューは、と書きたいところだが、土曜日に来る人は全員このブログを愛読してくれているので、陳腐ではあるがお楽しみとして伏せておきたいと思う。

とにかくは、水曜日から煮込んでいたから、お肉がほろほろだとか、よく味が染みているだとか、そういうことを言われたいがための行為である。

ビールを飲みながら、次に焼酎を飲みながら、肉を切ったり、イカを切ったり、里芋の皮を剥いたり、あれやこれやと矢継ぎ早に進めていく。

飲食店で目が回るようにバタバタと働きたくはないが、せっかちなせいか、手際はよい方だと思う。たぶん。

酔いとともに、じわじわと楽しくなってくる。味見がツマミである。酒が進んで、料理も進んで、気分がはずんでくる。

あらゆる行為の中で唯一料理のみにある、ぼくらしくもない奉仕の気持ちと、打算のない純粋さで、人のことを思う。食べる人のことを想像する。

その料理を出すときにあるだろう、楽しげな雰囲気や笑い声が、漠然と思い浮かぶ。そんな想像は、ぼくをしみじみと楽しい気持ちにさせてくれる。

当たり前だが、自分のために作って自分で食べるときには、そういう気持ちにはまったくならない。

自分を喜ばせてどうする、という感じである。いや、自分で作った料理で自分が喜べるわけがないだろうとも思う。

だって、何をどう作るかわかってて、その通りに出来上がったものを食べるんだから、そんなものに感激もへったくれもあるわけがない。

ガツガツ食ってハァ食った食ったと腹をさすって終わりである。

ぼくが思うに、料理ほど相手が居なければやりがいのない行為も珍しいと思う。

料理で自己満足できる人がいるとしたら、一度お目にかかりたいものだ。たぶんその人は、きっと豚みたいな奴だろうと思う。見た目はもちろん、その内面も。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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