日本人の沈黙、その内実の変化

  2017/08/22

きのうのクラスメイトとの無駄話。

白人もしくは黒人男性と結婚している女性がいるが、なんか抵抗がある、というか、日本人男性としてなんだか敗北感があるよね、と。

確かにある。あの感覚はなんだろうかと思う。敗戦ですっかり失ってしまった日本人としての民族意識がにわかに高まるからなのかもしれない。

その話と繋がるような繋がらないような話だが、今日の読売新聞のコラムを読んでいたら、こんな話があった。

以下、読売新聞のWEBサイトより抜粋。

「(尖閣問題で)中国の若者が暴走して日系スーパーや日本レストランを荒らしたが、日本で同様の報復がなかったことは幸いなことだった。昨年の震災で日本人は感嘆すべき自制心と成熟度を世界に見せたが、今回も同様の資質を見せた。これは他のアジア諸国を安心させ、地域の安定にとっても大事なことだと思う」

確かにね、とは思ったものの、待てよ、とぼくは思った。

というのも、日本人が暴挙に出ないのは、ほんとうに「感嘆すべき自制心と成熟度」というような類のものによるのだろうか。日本人は我慢強く、秩序正しく、寛容だなどとはよく言われるが、それはほんとうだろうか。

たとえば同じ沈黙でも、その質があると思う。

沈黙A:ある会社に所属している。個人的な不満があるが、言わない。自分の不満を言うことで、上司等々に迷惑がかかる可能性があるからだ。自分さえ我慢すれば円滑に回っている。このまま我慢しよう。

沈黙B:ある会社に所属している。個人的な不満があるが、言わない。自分が何を言ったところで、どうせ現状は変わらないからだ。無駄な労力を使うのはやめておこう。

上記のような心情は、ありとあらゆる組織にあるだろうと思う。しかし、その内実をみれば天と地ほどの差があるのがおわかりいただけるだろう。

そういう内実のことを考えると、ぼくとしては、「感嘆すべき自制心と成熟度」なんて物言いは、どうにもうさん臭さを感じてしまう。

確かに昔は、たとえば世界大戦の直後などは、「感嘆すべき自制心と成熟度」があったのかもしれない。

昨日の授業で聞いた話だが、戦争に負けて占領されたからといってすぐに治安が安定することはまずない。イラクやアフガニスタンなどを例に出すまでもなく、必ずゲリラというものが発生し、いつまでもくすぶり、自爆テロ等々の抵抗を続けるものだ。しかし日本は不思議なもので、終戦後にアメリカに対するゲリラなどは一切発生しなかった。あれほど世界を相手に激烈な反抗を貫いたにもかかわらず、である。

これまた確かになと、考えさせられた。敗戦のショックが大きすぎて抵抗する気力などなかっただけかもしれないが、それこそ「感嘆すべき自制心と成熟度」で、負けたからには絶対服従という、日本国民全体のいさぎよい決意だったのかもしれない。

ほんとうのところはわからないが、とにかくは、ぼくは昨今しばしば賞賛されるような日本人の美徳の一切の内実は、いつの間にかまったく別物にすり替わってしまっているような気がしている。

その別物とは、たぶん、無関心であり、無気力であり、石原慎太郎がよくいうところの我欲であり、つまりはとても美徳とは呼べないような、沈黙というよりも無音のような、力なく頼りない、ゆっくりと、しかし確実に崩壊に向かっている、なにか。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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