むさぼられる眠りのなかば

最終更新: 2015/07/03

ようこそ!スーパーマスマティックスへ!ようこそ!

たぶんぼくは学生だった。友人の樋口と、数学の塾へ行く予定のようだった。

樋口はすでに塾に通っていて、それでぼくは、いい塾だよということで紹介されたのだった。

しかし樋口はその日、たまたま来れなくなり、ぼく一人で行くことになった。

塾の場所は、広島にあるぼくの実家の住所だった。隣などではなく、まったく同一住所だった。

ぼくはひとり、勝手のわかった自宅の敷地に足を踏み入れた。他の塾生だろう人たちが、ぼくを見ると、気まずそうに避けて、裏口へ回っていった。

ぼくは実家の、もとい数学の塾の玄関をくぐった。学校のバザーにあるような長テーブルに受付の人が座っていた。ぼくは樋口の紹介です、というと、ああ樋口さんの!ということで、カリキュラムやらなにやらを渡された。

この講義は大人気で、受講できるならぜひしたほうがいい。いまなら受講できるのであなたはラッキーだとか、なんとか、矢継ぎ早に言われた。

とにかくは体験入学ということで、受付を抜けて、奥の部屋に入った。するとそこは400人くらい収容できるコンサートホールのような空間であった。

しかもいまからオーケストラでも始まろうかという雰囲気で、みょうに薄暗い。

ぼくは適当に、そのへんの席に腰を落ち着けた。

受付でもらったパンフレット等々をぱらぱらやっていると、ふっと真っ暗になった。

そこへ、けたたましい音楽とともに、会場の一隅に、スポットライトが当てられた。学者然とした、どうやらこの大人気の数学の講師のようであった。

講師はさっと身を翻し、階段を駆け上った。観客、ではなく生徒全員が見上げねばならないような位置に据えつけられた、いわば宝塚の階段のような講義台まで、一気に駆け上がった。そして、息も切らさず、爽やかに言った。

ようこそ!スーパーマスマティックスへ!ようこそ!

……人の夢ほどつまらないものはないとはよく言われるが、まあそうだろうとは思う。しかしまあ、今日のところは勘弁してほしい。

何かしら思った方は、ちょっとひとこと、コメントを! 作者はとても喜びます。

わかりやすく投げ銭で気持ちを表明してみようという方は、天に徳を積めます!

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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