かつて男の子だった

  2017/08/22

画像は昨日の中華料理の実習のチンジャオロースー。

というのも、来月あるテストはピーマンとタケノコの細切りなので、それの練習メニューなのであった。

それはともかく白ごはん付だったんだけど、同じ班の"女子"が口をそろえてごはんが多いからと、ぼくのお茶碗に足していくのであった。いや、実際おなかがけっこう空いていたのでうれしくなくはないけれども、さすがに多かった。ぼくが、ちょ、ちょっと多いっ、と及び腰になっているとすかさずお決まりの一言が飛んできた。

大丈夫よォ!男の子でしょォ!

いや、そうだけどね。そうかもしれないけれども、少なくともぼくはもう男の子ではないのだよ、と、思った、が、そんなことは特に言う必要もないので、普通の定食屋ならばイイ店だネェというような気前のよい大盛りであろうごはんを、男の子は黙々と食べた。

帰りの電車で思った。

もう、男の子ではないんだよなあ、というか、中学生や高校生のようにはもう、とても食べられないのである。いつしか、いつの間にか、満腹は至福ではなく単なる"食傷"になってしまったていて、思うにそれは、いつからだっただろう。しかも希望のないことには、この先は食が細くなる一方なのだ。身体は棺桶に向かって突っ走り、体力は落ち、代謝は下がり続け、シワもシミも増え、あちこちが痛くなり、痛風にもなるんだろうし、そう、父から教わった悲しき老化の詩にわき目も振らず一直線なのである。

すなわち、「目はかすみ、耳にセミ鳴き、歯は抜けて、頭に霜降る、老いの暮れかな」。

イエス、サー。

まあ、みんな歳を取っていくから、我慢できるよね。

それはほんとうにそうなのである。ぼくだけがひとり歳を取るのなら耐えがたいだろうけれど、みんな歳を取る。しかし、ベンジャミンバトンのように、みんなが歳を取っていくのに、自分だけが若返っていくってのも、それはそれで確かに不幸で。

みんな同じ、みんな一緒、ってのは衆愚の始まりのような気もするけれど、それはそれでなかなか、いいところもあるんだろう。って、棺桶に片足突っ込んでるような発言ばっかりしてるな、おれ。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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