そりゃあまあ、男はつらいよね
2017/08/22
忙しさを過ぎ怠惰になりサボり過ぎていたランニングをひさしぶりに実施した本日。
画像は洗濯物のお山。ぼくは家事の中で洗濯が一番嫌いである。もともと好きではなかったが、最近はことにこの洗濯を干す、取り込む、畳む、という一連の流れがめんどくさくてしょうがない。とりあえず今日はいつものところに家の鍵を置いておいたので、我こそは倍賞ブランシェットだと思われる方は洗濯物を畳んでおきなさい。
それはともかく男はつらいよ奮闘篇。
なぜにこの奮闘篇を見たかというと、フェイスブックで誰かがこの回を紹介していて気になったからである。
で、考察。寅さんは一見、みんなに慕われ人気者のようだが、実はそうではない。あくまでもフーテンであり、ヤクザ者なのである。だから、いくら、さくらをはじめとらやのみんなが良くしてくれようとも、そこに居座ることはできない。健全な地域コミュニティからは排除された存在なのである。
で、そんな寅さんがこの回は知的障害のある花子というマドンナに恋をする。そのときのとらやのおっちゃんとおばちゃんのやりとりが以下。
「ただでさえ寅は頭が足りねえのに、頭が足りない同士で花子と結婚したりしてみろ。どんな子が産まれるかわかったもんじゃねえ」
一語一句正確ではないが、おおよそこのような内容。それにしても現代では即レッドカードであろう、けっこうなやりとりである。でも、このようなやり取りに誰も待ったをかけなかった時代なのだろう。1971年公開、だそうである。
そのやりとりも結構だったのだが、もっと感じ入ったワンシーンがあった。寅さんが失恋して、花子の故郷の青森まで追いかけていったという場面。いかにも寒そうな漁村の海辺の、廃墟のような掘っ立て小屋の横で、金も、泊まるところもないのだろう、手をこすりあわせてブルブルと立っている、という、ほんの数秒ほどのシーン。
なんだろう、きっと以前ならたいして何も感じなかった気がする。しかし、なぜだかそれを見て、そうなんだよなと、妙に深く納得してしまった。
いつもぼくらが思い描くのは、ちょっとした手土産を持って、照れながら、ばつが悪そうに、とらやの前を、ふらりふらりと2、3度行き来して、ようやくで入ってくる、いかにもひょうきんな感じの、人懐っこい笑顔の寅さんである。
しかし、彼は一般人ではなく、ヤクザ者で、根無し草であり、年中あちらこちらをふらふらといかがわしい的屋をして回っている、その日暮らしの男なのだ。
だから、身の上の苦労は一般人の比ではないはずなのである。金も寝床も無い、そんな日もざらだったりするだろう。ぼくが目の当りにしたワンシーン、寒さに身を縮こまらせて行く所も頼れる者もいない、そんな日を、何百日何千日と過ごしてきているに違いないのである。
しかしそれでも戻ってきた時には、律儀に手土産と、いかにも気楽でノンキに暮しているという底抜けに陽気なそぶりで、常々抱えている苦労や悲哀などはこれっぽっちも表に出さない。
実際のところ、寅さんがとらやで暮らせたとしたら、それなりにまっとうな暮らしができるはずではあるだろうけれど、コミュニティから排除されているヤクザ者を、一般の家庭であるとらやが受け入れることはできない。それはできない相談なのだ。
だからいつまでも、ごくたまに、知らせもなく、突然に、つまり人知れず、顔を見にくる程度だけ帰ってくるという、ぎりぎりのところで成り立っている関係なのである。
そう考えると、ぼくが昔っから、寅さんを見ると何故だか自然と顔がほころんでしまう理由が少しわかった気がした。漫才などに見る馬鹿笑いではない、お腹がよじれるような質の笑いではない、こう、わざとらしいほど自然にあふれ出てくるおかしみとでもいうような、やさしくて、いとおしい笑い。
寅さんは、チャップリンに似ているのかもしれない。そう、笑いと悲しみが同居している。
チャップリンは言った。
「人生は近くから見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ。」
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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