わたしのプライド

  2015/07/03

わたしのプライドといえば今井美樹である。今井美樹の旦那といえば布袋寅泰である。

それでふと思った。わたしのプライドとか言ってる女のとなりでラブラブラブ、ラブイズポイズンとか言ってる男を考えると、ちょっと、何がなんだかよくわからない。

いや、そういうどうでもいい話ではない。ぼくのプライドの話である。

昨日、朝ごはんを食べていると、母が言う。あなたのお弁当を作ったと。

ぼくは要らないつもりだったので(永遠に)、いらないと言ったのだが、せっかく作ったのだから持って行きなさいということで、そしてそれに反抗するほど子供でもないので、お弁当を持って家を出た(まあ、このやり取り自体がどうにもこうにも親対子供の典型的やり取りで腰砕けではあるが)。

弁当男子歴10年足らずのぼくとしては、実家に帰ってもお弁当を作ろうと思っていた。が、現実問題、ただでさえ忙しい朝、父と妹の弁当その他を用意する母の横に割り込んで作るほどの情熱は、しかし、無かったのであった。

閑話休題。

お昼になったので、お弁当の入ったかばんを持って外へ出た。社内で食べても構わないのだが、実際食べている人もちゃんと要るのだが、外へ出た。

適当なベンチを探して、しばしさまよった。ここにしようかと座りかけると、おっさんがとなりに座ってきてタバコを吸い始めた。仕方なく席を立ち、またしばし、さまよった。

よく晴れていた。それでも冬である。外は寒かった。

ふたつめのベンチで、弁当を広げた。それはまあ、自分で作る弁当の100倍はまともなお弁当であった。

学校に入って以来、ゆっくりよく噛むことを信条としてきたのだが、寒いのと、なんだかみじめなのとで、掻き込むように食べた。おいしいとかまずいとか、一切感ずることなく口に胃に詰め込んだ。

別に母が嫌いなわけではない。うっとうしいと切り捨てるほど子供でもない。ただ、三十路男性が、母の作った弁当をぶら下げて仕事へ行く、ということ自体が、どうにも許せなかったのだ。

それは、わたしのプライドである。

あるいは、妻の愛妻弁当であるなら、喜んで持っていこう。職場でも、堂々と広げよう。しかし、「愛妻弁当ですか?」と聞かれれば「いえ、愛母弁当です」と答えねばならぬのである。

「ああ、あのソニーのAIBOですか」「そうそうそうそう、ぼくの言うことをよく聞くおりこうさんなロボット犬でね、ってバカ」

そんなこんなで、胸中はかくも複雑であり、苦いのである。

だから、ぼくはもう、少なくとも実家に居る間は弁当男子はやめて、お昼は永遠に外食にすることにしたのである。そこは譲れないというか、譲ってはならないと漠然と思う。来月には31歳にもなる独身男性のプライドである。って、そんな偉そうに宣言するほどの話ではないのだが。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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