天気がいい、という気分

最終更新: 2017/08/22

今日は実に天気がいい。天気がいいからと言って何かいいことがあるわけでは決してないが、天気がいい。だから気分もいい。

金か名誉でも降ってくれば、なお気分はいいが、うららかな日和だけでも、まあ、気分はいい。

歩く。代々木までの定期は買っているが、新宿から代々木まで歩く。成城石井で買ったグレープフレーツジュースを飲みながら。気分は、いい。会社に着く。

正午前、ちょっと野暮用を言いつけられて外に出る。天気がいい。先ほどよりもなお、気分がいい。仕事中ではあるが、両の手に余るほどの自由に、自然、頬がゆるむ。

秋ではないが、空が妙に高い。あたたかな日差しが、さわ、さわ、さわと、そよ風のように降り注ぐ。

ふと、道行く人々の服がかろやかになっていることに気がつく。ぼくもまた、しかり。春、か。

気温20度、湿度50%とか、何か具体的な数値で表せるようなものではないが、漠然と、気分がいい。抒情という言葉に含まれるような、あらゆる人間の機微的な要素が混ざり合って、ああ、気分がいい。そう思う。

しみじみと、あるいは深々と、気分がいい。ちょっとわざとらしいほどの美しい心持ちに、我ながら驚く。ぼくにもこういう感性があったのかと。

へえ。ぼくはしっかり生きていたのか、なんて。

頭の中がからっぽなので、例によって新聞社のコラムで間を持たせるという姑息な手段を用いたい。以下、転載。

年明け早々、久々に劇団「こまつ座」の舞台をテレビで見た。井上ひさしさんが、自作の戯曲を上演するため旗揚げした一座で、凡夫も何度か舞台を楽しんだ。放送されたのは「イーハトーボの劇列車」。彼が敬愛した宮沢賢治を描いた評伝劇とされる

▼この芝居の序盤、東京の病院に入院した妹を賢治が見舞う場面が印象深い。彼は菜食主義だったが、病弱の妹を気遣って牛肉を勧める。そして彼女が肉を口に運ぼうとするたび傍らで兄は念仏を唱える。命をいただく-。そんな言葉が頭に浮かぶ

▼先日、大手コンビニエンスストアの「ファミリーマート」が、当初予定していた弁当の販売を中止する騒動があった。〝幻の新商品〟となったのは、「黒毛和牛入りハンバーグ弁当~フォアグラパテ添え」。一部の消費者からクレームが届いて断念した

▼同社の発表によると、やり玉に挙がったのは牛肉ではなくフォアグラ。飼育方法が残酷であり、食材として使わないでほしい-との意見だった。しかも、弁当の発売告知から中止を決断するまでの間、会社側に寄せられたという声は約20件。いささか過剰にも映る対応に逆に驚いた

▼フォアグラは世界三大珍味の一つ。素材はガチョウなどの肝臓で、大量の餌を強制的に与え、脂肪で肥大させた物が多い。その飼育法をめぐり欧米では賛否を呼んでおり、こうした主張が日本に〝飛び火〟した格好だ

▼となれば魚の生け作りやシロウオの躍り食い、霜降り和牛に…日本の食文化も危ない。生きとし生けるものの命を感謝していただく。大切なことは、その気持ちではなかろうか。

【岩手日日新聞社 コラム(02/04)】http://www.iwanichi.co.jp/column/page_10.html

転載終わり。

ああ、件のくだらないやつか。

まあ、フォアグラの飼育方法がえげつないということはわかるが、だからどうしたという感じである。クレームを入れたバカ者は、まさか今まで蚊の一匹も殺したことがないというわけでもあるまい。あるいは、菜食主義者ですらないだろう。

そもそも、人間なんて一から十までロクなことをしない生き物ではないか。この地球で一番やっかいなのは、どう考えたってわれわれ人間である。それが、ちょっと無理やり太らせた鳥の肝臓を食ったからって食わなかったからって、何がどう変わるというのか。バカバカしいにもほどがある。

悟ったようなことを言わせてもらうと、自分が生きてるってだけで、どこかで誰かが苦しんでいる。それが今も昔も変わらぬ、この世の仕組みではないか。

ぐちぐち言ったって始まらないじゃないか。とりあえず日本に生まれ飽食に恵まれたこの幸運を、朽ち果てるまでありがたく享受すれば、それでいいのではないか。

輪廻があるとすれば、現世でのツケはまた来世か、あるいは前世ですでに払ってるんじゃないんですかね。

食べられるものは全部食べる。そして目いっぱいクソして、しっかり寝る。それ以上のことは、人間にはできないんじゃないんですか。野蛮も残酷もなにもなく、たかが人間、所詮は動物なんですよ。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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