さまよえる引越

  2015/07/03

来たる今週末、4月27日の土曜日は引越である。実家滞在期間は2ヶ月半ほどであったが、それなりにいろいろあったようにも思う。が、なんの感慨もない。

実家に住むこともどうでもいいし、これから住むところにも、それほどの期待は無い。まあ、また一人でぼそぼそ生きていこうかと遠い目で思うばかりである。

そのような無気力な感じで、土日は引越の準備をした。

といっても、食器などは東京から帰ってきたまま、ダンボールのままであったので、それほど準備することはない。しかし家電など一切は売り払ってしまったので、それらはまた馬鹿みたいに買い揃え、引越し先に直接届くよう手配済である。

そうしてほどなく終了して、2ヶ月ばかり前に見た光景とほとんど同じ光景が形作られた。

土曜日になれば、同じように業者が来て、同じように運び出し、同じようにトラックに積み込み、同じように引越し先へと運び、同じように引越し先の部屋に運び入れ、同じように、ぼくは引越し完了のサインをするだろう。

それから、引越し業者がありがとうございましたと言ってドアを閉じた直後、ぞわっとする、途方もない静けさを味わうだろう。かつて、その静けさは喜びであり希望に満ち溢れてもいたが、いまの心境ではきっと、孤独感と無力感の慰めにしかならないだろう。慰めといっても、孤独感と無力感と静けさの、同類相憐れむという傷の舐め合いのようなものであって、なんの解決にもならないのだが、それでも慰めには違いない。

変わることと言えば、徒歩で通勤するようになり、また日々せっせと料理をするようになり、お弁当も作るようになり、ランニングコースが原爆ドームの周辺になること、くらいだろうか。

あとは、ひとりなので誰の目も気にすることなく、泣きたい時には泣き、その他、勝手気ままな醜態をさらし放題だということくらい、か。

楽しくやれたらいい。楽しくなったらいい。そのように願うが、きっと心は変わらず、拭えない虚しさを別の場所に移すだけにしかならないだろう。

まあしかし、このまま実家に住み続けるよりは、だらだらと何もしないよりは、マシ。という程度のことである。でもまあ、少しでもマシになったらいい。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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