夥しく面倒な

  2017/08/22

今日は4時に起きた。まず、ちょっと絵を描いてから、朝ご飯を食べた。十六穀米と、さばの塩焼きにかいわれ大根を添えた。食後にはコーヒーを飲んで、それから向精神薬も飲んでおいた。

また絵を描き始めた。が、もやりもやりと胸の内を吐露したくなってきて、パソコンに向かう、いま、現在。

今週の土曜日は仕事だった。ちゃんと振り替え休日はもらえているので何の問題もないのだが、それはともかく、仕事。

夜が、仕事終わりが近づくと、また飲みたくなって、久しぶりに誰かと話したいと思った。知人のAさんに連絡をしてみた。すると、大丈夫だという返信。ではでは、ということになった数分後、再びAさんから連絡があった。いましがた、Aさんにぼくと共通の知人Bさんからも誘いがあったとのことで、三人で飲むということにしてもいいかというお伺いであった。

ぼくはすぐに構わない旨の連絡を入れた。それから、Photoshopのセミナーで訪れていた御茶ノ水から、中央線に乗り込んだ。

待ち合わせは西荻窪だった。当たり前だが、徐々に西荻窪が近づく。3人で飲むことを想像した。Aさんが話す、Bさんが話す、ぼくが話す。Aさんが笑う、Bさんが笑う、ぼくが笑う。3の自乗の組み合わせで、話したり笑ったり食ったり飲んだりする。酔っ払ってくると、3の自乗では収まりきらないバリエーションをもって、膨らんだりしぼんだりしながら、時間が流れてゆく。

ぼくが乗っていたのは快速だったので、新宿か中野で乗り換えねばならなかった。しかし、乗り換える気になれなかった。既述のように3人で飲むことを想像すると、どうにも気が重くなってきた。2人と3人は全然違う。そう思った。2人で”わいわい”することは難しいが、3人では集まった時点で”わいわい”なのである。わいわいする気分では、正直、なかった。

それで、気が進まないものをわざわざ行く必要もないと、断りの連絡を入れた。西荻窪は、快速ですでに通り過ぎていた。

ぼくが乗っていた快速は、立川ではなく、武蔵小金井止まりだった。なんとはなしに、携帯で、武蔵小金井の居酒屋を検索した。すると、よさそうな居酒屋が見つかった。それで、武蔵小金井で降りることにした。

果たして、予想以上にいい店だった。いつものように、一人で飲んだ。ネルケ無方というドイツ人の坊さんの【日本人に「宗教」は要らない】という本を読みながら。アダムとイブが知恵の実さえ食べなければ何もせずに暮らせたはずの西洋人にとって、労働とは「罰」なのであるという指摘に、深々と納得したり興奮したりしながら、ビールの大瓶と、日本酒を4合ほど、気分よく飲んだ。

ほどよく酔っ払って、店を出た。駅に向かいながら、やはり今日は行かなくてよかったなあと思った。

電車に乗って、二駅ほど、国立で降りた。雨が降っていた。最近暖かくなってきたと思っていたのに、この日は妙に寒かった。自転車に乗って、雨の中、思い切りペダルを踏んで家路を急いだ。

雨脚が強くなっていく。そして、ひどく寒かった。酔っ払いは、ひとりごとを言いながら、いや、ほとんど叫びながら、ペダルを踏み続けた。

家に帰ったら、お風呂に入って、すぐに寝ようと思っていた。しかし、この夜がもったいないというか、何かが足りないというか、自己を消してしまいたいような、どこか遠くへ行きたいような、とにかくは満ち足りなさが膨らんで、ふたたび酒に手を伸ばした。

ウィスキーしかなかったので、ロックで飲んだ。もう十分に酔っ払っていることはわかっていた。もう、飲むのはやめて、床についたほうがいいこともわかっていた。それでも飲み続けるのは、ただただ自身の胸の内に油染みのように鈍重に広がる満ち足りなさに対する攻撃というか抵抗という他なかった。

何がどうして、何があったとかいうわけではない。むしろ、何もない。いや、本当に、びっくりするほど、何もない。いや、いや、いや、「何もない」ということが、一番の何かのような気がする。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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