はたらく大人なるもの
2015/07/03
朝、出かける用意をしていると、昔から耳の悪い、というか最近ではほとんどつんぼ(差別語だけど)である祖母が言う。ともくんどこに出かけるのかと。
ぼくが会社に行くんよと言うと、彼女はぼくの唇を読んで会社に行くんね?とオウム返しをした。
ぼくは、そうそう会社に行くんよ会社ともう一度言った。すると唇を読みきれなかったようで、何を言っているのかわからない、という顔をした。
仕方ないのでぼくはもう一度、かいしゃ、とだけ言った。
すると、はあはあと言って、どうやら仕事がこっちで見つかったことを理解したようであった。
それから彼女は、仕事があるならええ。仕事せんとおこづかいが無いけえね、と言った。
おこづかいという単語になんだか脱力したが、まあいいやと、すこし笑って、家を出た。
駅まで歩きながら、おこづかいどころの話ではなくて、生活だろうよと思ったが、自分の身の上を考えると、なるほど、おこづかいという単語は妙にしっくりとくるように思われた。
確かに、はたらいて、生活してゆくのだ、という気がまったくしない。
働いてひとりで暮らすというのは、それ自体が負荷であるし、大袈裟だが、自立した大人の証明書のようなものなのだったのかしらと思う。
ぼんやり、ほんとうにぼんやり、これがパラサイトシングルといういうやつか、なんて思いながら、ぼくはおこづかいを稼ぎにゆくのであった。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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