お金と時間のただしい使い方
2015/07/03
三連休の最終日。変な時間に寝入ってしまい、中途半端な時間に目覚めた21時過ぎ。
ぼんやりとさびしかった。ああ、適当な友達が居ないんだよなと、最近しみじみと思う。人恋しいと言えばまあその通りだが、会って話したいと思える人は広島にはいない。
当たり前だけれど、話し相手になってくれるならば誰でもいいわけではない。誰でもいいのならそれこそ赤ん坊だっていいはずで、だけど自分の胸の内を赤ん坊に熱く語ったところでのれんに腕押し豚に真珠馬の耳に念仏、なんにもならないのはわざわざ想像しなくたってわかること。
放送大学で聞いた、ビートルズの「help!」の歌詞の日本語訳を思い出す。
「助けて!誰か必要なんだ助けて!誰でもいいわけじゃないけど 助けて!誰か必要ってわかるでしょ 助けて 」
まあ、そんな心持ち。しかしまた、瀬戸内寂聴の言葉も思い出す。「人間が孤独であることと、この世が無常であることは、生きていく原点」なんだと。
孤独と無常。つまりひとりきりで生まれ、ひとりきりで死んでいくこと。その真理に対しては、抗ったり闘ったりするものではない。ただひたすらに受け入れるものだと、これもどこかで誰かが言っていた。
なんだかどこかに出かけたかった。だれか人のいるところへ。いや、それはそれとして、外食がしたい。お好み焼きが食べたい(お昼にも実家で作ってもらって食べたけど)。そうだ、お好み焼きを食べに行こう、そう思った。
しかしビールとお好み焼きで計1,200円くらいはするだろうと考えると、気が進まなかった。浪費癖のままに生きてきたわたしだが、この歳になってようやく、未来のために倹約を心がけているのである。で、何につけても極端でほどほどということを知らないので、その倹約の仕方が尋常ではないのである。
しかし、なんらかの既製品、出来合いのわかりやすい味のものが食べたかった。じゃあ、スーパーで惣菜とか、1,200円相当の買い物をして家で食べようということで自分を納得させた。それなら安いしお得でもあるだろう。
スーパーに着いたのは、22時ごろであった。惣菜コーナーでは、軒並み3割引や半額のシールが貼付されていた。
サラダも、煮物も、天ぷらも、弁当も、ごく安かった。しかし、サラダを見れば、これなら家に大根があるから自分で大根サラダでも作った方が、煮物なんか超かんたんに自分で作れるし、天ぷらはカロリー高いし、弁当もなんだかなあと、その鈍重に過ぎる食指には自分でも呆れるばかりであった。
そんなこんなで悩んだすえに買ったものは、135mlの麒麟淡麗を6本(一週間分)、半額になっていたホホタレ(カタクチイワシ)、半額になっていたしじみ、焼きそば一玉、うどん一玉、絹ごし豆腐、ピーマン、もやし二袋、紙パックのグレープフルーツジュース1リットル。しめて1200円足らず。
お好み焼きを外食する代替としては、確かに経済的であり健康的でもある。しかし結局、ただのひとつも惣菜を買っていない。しっかり自分で料理する材料でしかない。
帰り道、さすがに自分で自分がよくわからないと思った。いったいおれは何がしたいんだと、ちょっと呆れた。
家に帰って、焼きそばを作った。その一部は(具の部分のみ)弁当のおかずとして弁当箱に詰めた。同時進行で、朝食用にしじみのみそ汁を作った。
そうして、堅実で、健全で、罪のない、しかしおそろしく凡庸な夜がふけていった。いきおい泣き出しそうだったけれども、泣いてどうなるわけでもなし、冷静に歯磨きをして床につくほかなかった。
誰も彼も自分の人生のみを生きることしかできない。自分の人生における一切は、ただひとり自分自身が、悲しかろうが辛かろうがなんだろうが黙って引き受けるしかないのである。
武者小路実篤曰く、「生まれた者は やがて死ぬ者なり 我も亦 やがて死なんだが生きてゐる間は生きる也 我らしく生きる也 何者にも頭を下げず いぢけずに生きんと思ふ。」
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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