言葉は知性を顕すのである。

  2017/08/22

めっきり更新が減っており申し訳ありません。決して生きることを怠けているわけではなく、ひたすら10月の個展のための作品制作に注力している次第なのです。どうかご理解いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

このお盆にしても、いわゆる缶詰で制作に励んでいるぼくなのです。夏らしいイベントはおろか、外出すらもほとんどしていないので相変わらず白いのです。まあ、もともと日焼け止めを塗りたくっておりますので、意地でも日焼けなどしませんが。

それはさておき、最近読んだ【愛と暴力の戦後とその後 / 赤坂 真理 (講談社現代新書) 】という本について、何か書きたいと思っていたのだが、今しがたようやく書くべきことを思いついたので、早速書くことにする。

まずは、ぼくが本書で一番印象に残った箇所をご一読いただきたい。

以下、本書より引用。

しかし、麻生太郎は、本当によく揚げ足を取られた総理大臣であったが、よく見ると、失策やスキャンダル級の失言は、本人にも閣僚にもない。~中略~彼を無能呼ばわりする論拠の最大のものが、この「みぞゆう」ではなかったかと思う。そうとしか思えない。

新聞などは、鬼の首でも取ったかのように、天声人語やそれに類する各社のコラムでも季語のごとく導入部に使い回した。それで結論は、「未曾有をみぞゆうと読むような知性の男に政治を任せておいてよいのか」だった。~中略~このエピソードは現代日本と日本人、そして現代日本語を考えるうえで、実は示唆に富んでいる。首相の知性の証が、漢字を読めるか、ということなのである。漢字を読めんから、けしからん。

これは長らく日本人の「教養」への態度であったし、近代になっては植民地に押し付けた態度であった。漢字の読み下しを日本人のように自由自在にできるか。そこで「未曾有」を「みぞゆう」と読んだ、このような政治家が「自民党政権最後の男」となったことは、とにもかくにも興味深いのである。

引用終わり。

なるほどとしか言いようがない。というか、何を隠そうこのぼくこそが、他人の瑣末な漢字の読み間違えをいちいち指摘し、悦に入ってはばからない品性下劣な人種なのである。

しかし、漢字の読み間違いほど恥ずかしいものはないというのも事実だろう。いや、それこそ日本人の骨の髄にまで染み込んだ精神であろう。だから、どこまでも日本人なぼくは漢字の読み間違えをするような人間を「馬鹿だ」と思い、「頭が悪い」と思う。思ってしまう。パブロフの犬のごとくの条件反射で、即座に反応してしまう。

ぼくだって分かっている。漢字の読みなんてものは、たまたま知ってるか知らないかぐらいの話でしかなく、頭のスペックなどとは無関係であることを。

しかし、それでも見下してしまう。

引用箇所にあるように、これこそが日本人の教養に対する態度なので、仕方がないのであろうか。まあ、いまだにインテリに憧れるぼくであるので、無理もないのかもしれない。

言い換えれば、日本人の伝統的な価値観。そういうものに、ぼくは縛られ、囚われているのかもしれない。

そんなこんなを考察してみるも、どこか腑に落ちないものを感じていた。それから、かれこれ数十日。しかし、先ほど、MINMIのアルバムを聞いていて気がついた(シャナナ☆という曲がお気に入り。夏にピッタリなアゲアゲなナンバーです、とかいう死語を使っちゃうくらいなかなかいい曲です)。

曲の中でラッパーとおぼしき輩が言う。「カモン」だとか「ベイビー」だとか「アイラビュー」だとか「ホールドオン」だとかを、恥ずかしげもなく言う。どうにもバカっぽい単語をいかにもバカっぽく言うのである。

一応「バカっ”ぽく”」なんて曖昧にしてやったが、実際、というか絶対、こいつらはバカだと思う。もう、揺るぎ無い自信を持って言いたい。「おまえ、バカだろ?」と。

そのように考えると、ぼくはたちまち合点がいった。漢字の読み書き云々に限らず、言葉そのものが知性であり、それをどれだけ使いこなせるか、どのように使うのかということが、知性の証明となるのである。

そう、漢字の読み間違えを持って知性の有無を論じるのは、決して無茶苦茶な話でもない。一事が万事である。知性はあらゆる方向から計られ、試される。総理大臣ともなれば言わずもがなである。一国一城の主が、バカだと思われたら終わりというのは当たり前の話ではなかろうか。

父権の失墜が言われて久しいが、あるいは、そもそもの原因はこのあたりにあるのかもしれない。なんか偉そうなこと言ってるけど、だっておまえ、バカじゃん? というような。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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