アマテラスアサヒビール

  2017/08/22

関心が関心を呼ぶのだろうか。ただ単に、頭に収まった知識が類似の事物を自然と探し集めるのだろうか。

昨日ひょろっと立ち寄った立ち飲み屋でのこの広告。

きっと一月まえなら反応しなかったろうし、何も思わなかった。

でも今はちょうど、阿刀田高(あとうだたかし)氏の「おもしろい古事記」?だっけか、そういう本を読んでるところなので、あれっ?と反応して写メった次第、っていうか、写メって死語?もはや写メもくそもなく無味乾燥に"画像データ"という気がするのだが。

そんなこんなで、あ〜、これは天の岩戸隠れではないかとすぐ気づいた。

天の岩戸隠れというのは、日本神話で古事記や日本書紀にある物語で、アマテラス大御神(オオミカミ)が弟であるスサノオの命(ミコト)の蛮行に嘆いて、天の岩戸に隠れてしまい世界が真っ暗になってしまうという話である。

アマテラス大御神というのは、日本の皇室の始まりであるとされ、八百万の神々がいる日本でも、もっとも偉いとされる神様であり、現在は伊勢神宮にまつられている。

ちなみにアマテラス大御神とは、実は卑弥呼ではないかという話もあったりする。

で、なんでアマテラス大御神が天の岩戸に隠れると世界が真っ暗になるかというと、アマテラス大御神は太陽神なので、つまり太陽が隠れてしまえば世界は真っ暗になると、こういう理屈である。

で、なんで隠れたかというと、弟であるスサノオの命の悪事に嘆き悲しみ、たとえばアマテラス大御神が、機織り場で、織女たちに神々の衣装を織らせているところに、スサノオの命は屋根にのぼって穴をあけ、皮を剥いだ血だらけの馬を投げ落としたりする。そして織女のひとりなどは驚きのあまり機織り道具で下腹を刺して死んでしまう。

そんなこんなの連続でアマテラス大御神はご心痛。なんということだ、もうこんな世とはおさらばしたい、というような気持ちは、左遷の憂き目に合ったサラリーマンなどと、神様といえども同じらしい。

そんなこんなでアマテラス大御神は天の岩戸にひきこもった。

真っ暗になった世界。さてこれは困ったぞと、八百万の神々がアマテラスに出てきてくれるようにあれやこれやの策を練って策をうつ。

それがこの場面。岩戸のそとで、鶏にコケコッコーと鳴かせたりみんなで踊ったり太鼓を叩いたりして、そしてなんの騒ぎだろうとアマテラスが岩戸からちょっと外の様子をうかがったとき、今だ!と神様の一人が岩戸をさっと押し退ける。そして世界にぴかぴかぴかーんと光が戻りめでたしめでたし、という。

つまりはこの広告、アマテラス大御神をアサヒビールに置き換えているパロディ広告なのである

なんだそんなことか、と思われた方はちょっと考えてみてほしい。これはキリスト経でいえばゴルゴタの丘でのキリスト磔刑において、アサヒビールを十字架に磔にするようなものであるし、イスラム経でいえばマホメットが瞑想中に天使ガブリエルがアラーのお告げを告げる場面で、お告げの代わりにアサヒビールを持ってやってきている、というような、とんでもない広告ということなのである。

それはもう、この一枚でテロが起こってもおかしくないレベルで、とりあえずアサヒビールにボーイングが3機くらい、そして博報堂か電通あたりに5機ずつくらい突っ込むのも、まったくやぶさかではないという、恐ろしいレベルなのである。

そう考えると、この広告がどれだけアナーキーか、またどれだけ日本人が宗教に対して寛容かということが、如実に表現されていると言えるだろう。

まったく、そんな意味が読み取れると、俄然この広告はうまいしすげえなあと、ひとりごちて感心しきりなのである。

やっぱ、アートはもちろん、なんでも意味がわかってこそ、予備知識があってこそ、ほんとうにおもしろくなる、気がする。

ゲーテよろしく、もっと知識を!

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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