なにはなくとも生きている

  2015/07/03

だいたいおんなじ毎日 そいでまあまあそれなりOK だけど、なんとなく空見上げちゃうんでしょ?

昔カラオケでよく歌っていたhideの歌の歌詞であるが、まあ、確かになと思う。

別にどこの誰とも知らないやつに自分の気持ちを代弁してもらわねばならないほど貧弱な感性ではないが、いまふっとその歌を思い出した。

だいたいおんなじ毎日。昨日と今日とは、呆れるほどにそっくりで、それで、今日は何曜日だったっけ? とか、なる。今日は何日で、何月で、季節は、果ては、いまは何年か。

手ごたえなく過ぎ去っていく日々は常に晩秋のようで、しかしもちろんいまは初夏で、木々はさも当然のように濃く萌えている。

ちょっと深呼吸してみる。二日酔いの胸糞に、新鮮な空気が消毒液のようにしみる。ちょっと痛い、というのはきっと感傷で、しかし、じわりこもる現実的なわきの汗が、そんなセンチメンタルを許してはくれない。

だから夏は嫌いだ。感傷はもちろん、はかない空想も、郷愁も、ニヒリズムも、うだる暑さの前にはうっとうしい蚊や小蝿に等しい。

夏は嫌いだ。ぼくには冬が似合うんだ。いつか樋口がぼくのことを「雪山で震えているのが似合う」という名言を吐いたが、なるほど言い得て妙である。

それに、夏はぼくに、かつて子供だったことを強く感じさせる。かつて子供だったと思うこと感じることは、ピーターパン症候群が下火になった今でも、相も変わらず感傷を誘う。

虫とりだとか、プールだとか、草むらだとか、それから、青い、青すぎる空。

今では空は、季節問わず、どう目をこらして見てもかすんで白っぽくて、ひいき目に見ても水色でしかない。環境汚染のせいで空が濁ったのだろうなんて思っていたが、実は人間の眼自体が、老化とともに濁るからなのだと、最近知った。

それはつまり、これからいくらエコが進もうとも、もう子供のころに見た青い空は絶対に見ることができないということだ。

とはいえ、それほど空が好きなわけでもないが、だいたいおんなじ毎日 そいでまあまあそれなりOK だけど、なんとなく空見上げちゃうんでしょ? って、そう。

そうして見上げた空は、やっぱり白くかすんでいて、自然と記憶の中の青い空をなぞってしまう。子供のころの自分を、大人になってしまった自分を、儚んでしまう。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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