われわれは科学の奴隷でよいのか!?

  2015/07/03

一年を通して気になるのは体重である。

わたしの平均は65kgくらいなのだが、けっこう増減する。そして体重計の示す値は、自分のナルシシズムを左右する。63kgくらいのときは、「ああ、おれってばちょっと病気なのかも……」などと言ってくねくねと悦に入る一方、67〜68kgくらいのときは「この豚野郎!今すぐ走ってこい!」と自らを叱咤するのである。

しかし昨今では体重よりも体脂肪が重要らしい、という話をよくきく。けれども体脂肪が何%だとか言っても、今までその値に関心を持つ習慣がないので、全然ピンとこない。つまりデブなんだかヤセてんだか直感的に判断できないのだ。

そういうわけで、もっぱらぼくは体重の値のみに気を払い、それでよしとしてきた。

ところが去年、ケータイのポイントが貯まったので、omronの体重計をもらうことにしたのである。それほど欲しかったわけでもないが、なんとなくデジタルもいいかなあと思っただけ、つまり思いつきのレベルである。

この体重計はなかなかにハイテクで、今まで愛用していた電源不要アナログの伝統的体重計とは違い、身長や年齢を登録すると体脂肪やBMIまで教えてくれるのである。

それでぼくは、いの一番に自分の情報を登録した。男性、30歳(去年のことである)、180cm。そして計測。BMIは20あたりで、体脂肪率は16%くらいで、両方とも標準の範囲であった。感想としては、まあそりゃあそうだろ、むしろ細いって言われるし(体重計に対して無駄に上から目線)。

しかしこういうハイテク機器の行く末の常として、最初の2〜3回はめずらしがってまめに計るが、じきにめんどくさくなって使わなくなるものである。それで、やっぱりシンプルが一番だねとアナログに戻ったりする。そういうわけで、体重計以外の機能を、半年以上つかわずにいたのである。

ひさしぶりに計ってみようと思ったのは先週のことである。個人情報を4人まで登録できるので、自分の登録ナンバー「P1」に合わせて計測した。

65kg、BMI 20と特に変わりなかったが、問題は体脂肪率であった。33%で、判定は肥満。唖然とした。

ひ、肥満? このおれが、ひ、ひ、肥満? 豚? ブタ野郎ですか? ひ、ひ、ひ、ひぃ、ふぅ。

しかしネットでこれを調べてみると、お風呂上がりの足の裏とかはよく誤差がでる、というような記事があった。ああ、なるほど、これだこれだということでひとり勝手に納得してその日は寝た。

それからしばらく忘れていて、昨日、絵を描いている時にふと思い出して、計ってみた。むろん風呂上りではない。

65kg、BMI 20、体脂肪率33%つまり肥満。デブ。ブタ。クソ野郎。

このどうにも動かしがたい現実は、静かに、しかし激しくぼくを動揺させた。たしかに筋肉はほとんどないけれども、そんなものに興味はないのだけれども、しかし肥満はちょっと、いや、かなりまずい。これはいわゆる隠れ肥満というやつですか。確かに毎日酒飲んでるし普通にけっこう食ってますけど、でも、でも、ジャンクフードとか高カロリーの類はほとんど食べないし相当に食べ物には気を使ってるし、飲み物はカロリーゼロのものか牛乳豆乳野菜ジュースたまにヤクルトくらいしか飲まない超健康志向なのに、肥満になってしまったのかおれは。もしかすると広島の水が合わないのかもしれない。どうでもいい街だし。それにしてもデブでブタでクソ野郎なのかおれは。30代とはかくも厳しい基礎代謝率なのだろうか……。

絵の制作のノルマを終えたのは23時40分ごろであった。ここからごはんを作って0時過ぎになった。正直疲れていた。しかしそこからランニングに出かけた。デブで豚野郎の自分なんて絶対にあり得ない! わたしは理想高き新宅睦仁なのだ!

ほとんど目は血走っていたと思う。そう、この世で恐ろしきは執念というものである。

一夜明けて今朝、また絵を描いていた。まだ体脂肪率が気になっていた。何かの間違いかもしれない。もう一回計ってみようと、体重計を風呂場の横ではなく、メインの部屋に、白日のもとに引っ張り出した。

なんとはなしに、登録情報を今一度入力した。登録してあるP1ではなく、ゲストという設定で計量した。

65kg、BMI 20、体脂肪率16%。つまり標準。

おお、おお、おお、おほぉ。

確認のため、もう一度情報を入力し、計量した。やっぱり体脂肪率16%。This is a 標準。

おほ、おほぉ、ほもォ、おほほほぉ。ほくほくほく。

たしかに科学は万能かもしれないが、これからはもっと、自分の、人間本来の動物的感覚というものを信じてあげたいと思う。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家/WEBデザイナー/合同会社シンタク代表。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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