アイアム、ひとりカラオケデビュー

  2017/08/22

どうでもいいけどおれのパソコン動きが遅い。なんでメモ帳つかってるだけでこんなに重いんだ。おいこら、おれのパソコン。シャキシャキ動かんとくらすけんね。って博多弁つかってみたお。

さて、今日はとうとう恐るべきことをしでかしてしまった、わたくし、新宅睦仁と申します。

ひとり焼肉からはや三日(たったの)、そう、ぼくはとうとう「ひとりカラオケ」に行ってしまったのである。

すいません、もったいぶってないですぐに詳細に入ります。

さて、ある程度酩酊していたぼくは、登戸の歌うんだ村へとやってきたのである。もちろんピン、つまりひとりで、である。

さっそうと自動ドアをくぐり、ぼくは店員に言ってやったんだ。

「ひとり!」

ってね。そりゃあ店員の眼に動揺が浮かんでいたことは、あい、おれにもよくわかった。しかし、ぼくはどこをどう見回してもひとりだったから、ひとり!って言うほかなかった。うん、わかってほしい。

で、フリードリンクではなくビールをひとつ頼みましてね、それで、マイクとかのセットが入った小さなカゴを渡されたわけです。203号室ですって、案内されて。

203号室は、まあカラオケだなあ〜、という匂いだった。くさいわけじゃなく、とにかくカラオケ屋だなあ〜、という匂い。

ぼくはひとり(ひとりで来たんだから当たり前だけど)ソファーに座った。その匂いで、何か頭の中の何かのスイッチがオンになって、他の誰かと一緒に来ているような錯覚に陥った。いま、その連れはトイレか何かに行っているだけで、すぐに戻ってくる、というような。

それほど、ひとりでカラオケに来るというのは違和感があった。その空間で、ぼくはどうにも所在なかった。酔っていたにもかかわらず。

歌っているときに「ビールです」って店員が来たら恥ずかしすぎると思ったので、ぼくはビールが来るのを待ってから、曲を入れた。

まだ気取りがあったんだろう。レッチリなんか入れてしまった。なんでひとりできて格好をつける必要があるのだろう。

いやしかし、仮想の"何者か"に対して、ぼくはしっかり自尊心を発揮しており、どや〜、レッチリやで〜、どや〜、と、やっぱり格好をつけてしまっていたのである。

しかしその気取りも、レッチリを一人恥ずかしげに、ちょっぴり控えめに歌ったあとには、すっかり無くなってしまった。

これまた当たり前だが、誰もいないのである。拍手や歓声、感想はもちろん、ざわめきさえもないのである。

気取りをなくしたぼくは、入れてやったね。グレイにソフィアに黒夢を。

久しぶりに歌ったね。黒夢の少年。

なんかよくわからんが、ものすごく自分の中でしっくりきた。昔とった杵柄とはこのことか。歌い方や間の空け方を、すべて意識しなくとも再現できた。

そんなこんなで、ビジュアル系を歌い続けた。まさにワンマンショー、今夜は返さないぜベイビー、である。

パロロロロロロロロ……。

おれは電話に出た。

「お時間10分前でございます。ご延長はよろしいですか?」

はい大丈夫です、といってぼくは最後の曲を入れてやった。GLAYの「REGRET」である。

これはよほどのGLAY通でないと知るまい、という名曲である。

で、それも熱唱。ぼくは"はやぶさ"よろしく、燃え尽きた。

素に戻ってきてちょっと恥ずかしがりながらお会計をして、外へ出た。

雨が降っていた。

家路を急いだ。

ひどく、むなしかった。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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