それぞれの幸福
2015/07/03
家に帰りたくないときもある。
それは特に関係ないが、昨日は恵比寿のNADiff a/p/a/r/t(ナディッフ アパート)に行った。
京都芸術センターで見た小谷元彦の映像作品に出演していた片山真理という人の個展を見に(というか、このような紹介をするとき、敬称をつけるべきかどうか、毎回悩む。同じ美術畑の同胞またはライバルと考えれば、敬称をつけないほうがよい、ような気がする、が、判然としない。とりあえず今回は敬称略)。
NADiff a/p/a/r/tの3FにあるTRAUMARISというギャラリー内は、オープニングということもあり、満員御礼という感じであった。あるいは知り合いがいるかもしれないなどと淡く期待したが、そのような顔の広さを持ち合わせているわけもないぼくは所在なく、ぐるり、歓談する人々をかきわけかきわけ展示を一巡した。
一般的なギャラリーのオープニングにあるタダ酒を探したが、ここでは併設されているBARでワイン他を購入するシステムとなっていた。500円程度であったが、それをケチってギャラリーを後にした。
それはともかく、ぼくとしては、片山真理の展示よりも、2FにあるギャラリーのMEMでやっていた石原友明 展『透明人間から抜け落ちた髪の透明さ』のほうに得るものがあった。
これは、入浴の際などに抜け落ちた作家自身の髪の毛をイラストレータなどでトレースしてベクターデータ化(数値化)し、キャンバスにインクジェットプリントしたという作品である。これを作家は”自画像”と言っているが、発想や手法にかなり納得というか共感するものがあった。
作品は100号程度のキャンバスにインクジェットプリントしてあった(各作品のエディションは3で55万円ほどだった)のだが、その手法が気になり、ギャラリーの方にどうやって印刷したのかを尋ねた。
キャンバスをロールの状態ではなく、張ったあとの平面にインクジェットプリントできる特殊な印刷方法があるのだという。へえーとなり、いつか使うかもしれないからその印刷業者を教えてほしいと思ったが、さすがにそこまでは聞けなかった。
さて、さきほどの浮いた500円で、というわけではないが、その足で安定のさくら水産を訪れた。恵比寿のような気取った地にもさくら水産なんていう下卑た店があるのだと知る。まったく、日本はどんどん落ちぶれていっているんだなあと思う。
生ビールの小と、ボトルワインを半分ほど飲んだ。以前は一本くらい余裕で飲めていた気がするのだが、それで十分に酔っ払っていた。
視界のそここで、飲み、食べ、話し、笑う人々が、とても愛おしく感じられた。これぞ幸福というものではないだろうか。
そこではたと思う。現代アートは批評的なものであると言われるが、それはしばしば批判に終始していやしないだろうか。もっと現代にある現実を肯定するような作品があってもいいのではないだろうか。
なぜなら、ちょっと人類の歴史を鑑みれば、現代が相当に幸福なことは自明であろう。少なくとも日本という国においては、最高に幸福な人間たちが暮らしていると言っても過言ではないのではなかろうか。
そうして、ぼくならどんなものを作るだろう。しばし考え、きっと、いま見ている風景をどうにかしたものになるだろうことだけは確かだと思った。キーワードとしては、居酒屋や宴会である。
などなどを、とめどなく考えたりした。で、ここにきてようやく冒頭の「家に帰りたくないときもある」に至る。
続く。かもしれないし、続かないかもしれない。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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