地震で死ぬ日は近くて遠くて近い

  2017/08/22

なんか今朝、地震があったらしいですね。
らしい、というのは、ぼくはその時間は小田急線内に居て立ったまま寝ていたので気づきませんでした。それに電車が止まるってこともなかったし。
また地震か。去年の311の日をしっかり覚えてるだけに、ちょっとの地震でもその続きを瞬間的に想像して、身構えてしまう。トイレ(大)にいるときなんかだと、思わず中腰になってしまう。トイレで死ぬのはちょっと勘弁してほしい。あれからもう一年が経つのかと思う。まったく、昨日のことのように鮮やかに覚えている。新宿から歩いたこととか、親から電話がかかってきたときのこととか、靖国神社まで歩いたこととか、家に帰ったらコップが落ちて割れていたこととか、でも前の晩に作ってコンロの上に置いていた"おでんの鍋"は微動だにしていなかったこととか、いろいろ。311を境に変わった変わったと声高に言われているけれど、どうして、ぼくはまったく変化を実感できていない。まあ、世の中に無関心なところがあるから仕方がないのかもしれないし、ぼくの感覚からすると当然のことなのかもしれない。特に死生観が変わって、毎日を大事にしなきゃとか、一度しかない人生を自分のやりたいように生きようとか、そんなことを思ったりした人が多いらしいけれど、そんなもんなのか。逆に言えば、それまでは本当に死ってものが限りなく遠い存在だったってことだろう。養老孟子が言ってた。現代は死を社会から追い出してしまう構造になっていて、それで死は現実には"あってはならない"ものになってしまい、だから現代人はみな自分だけは死なないと思っている、とかいうような趣旨のことを。死ぬのは病院。便所は水洗で、自分の汚物、すなわち自らの生々しい生き物っぽいところと対峙する必要などなく、ツマミひとつで目の前から消し去れる。クリーンな世の中。健康で、穢れなく、汚れもなく、とにかくは美しく、永遠を志向する構造。そうして自分だけは死なないという大いなる錯覚。確かに、現に自分も死ぬ気がしていない。死ぬ、ってのは言葉ではちゃんとわかってはいるんだけど、どうにも死というものがリアルにはとらえられずにいる。死に対して人よりは思いをはせたり考えたりする方だと自負してはいるのだが、それでも死はどうにもぼくとは関係ないところで、つまり、オゾンホールの穴が拡大したとかいう、確かにぼくに関係ある"らしい"けれどまったく実感のわかない、そう、単なる言葉としてしかとらえられない。
死。
だれもかれもいつかは自分=死という状態になる。土になるのか水になるのか風になるのかは知らない。ただ絶対に死ぬ。泣きわめいても祈っても、いくら金品を積んだとしても、絶対に死ぬ。この絶対すぎる事実がどうにも理解できないということは、あるいは、この世にはまったく、"死"以外にはただのひとつも"絶対"というものがないからこそ、誰ひとりとして、いくら考えたり思ったり目の当りにしてみたところで、死を理解できるわけはないのかもしれない。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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