わたくしの人間性回復法

  2015/07/03

風邪にかこつけて絵も描かずだらだらとした週末を送っているクソ人間こと新宅睦仁です。みんな元気?ぼくは風邪(せきが出るだけだけど)。

さて、金曜日のことである。学校では筆記のテストだったので、18時50分過ぎに学校を出た。というのも、テスト時間は50分なのだが、開始20分以降はテストが出来た人は随時退室してよいのである。で、普通の頭であれば10分程度で終わる試験なので、すぐに退室したわけである(いや、今回のテストがちゃんとできたのは、他でもないクラスのOママのおかげである。先週、テスト範囲説明の授業があったのだが、ぼくは広島に帰っており出ていないのである。が、Oママがテスト範囲を完璧に押さえた自作プリントを親切にも渡してくれたのである。この場を借りて厚く御礼申し上げたい)。

ひさしぶりのひとりの金曜日であった。那須への旅行以来、ひとりで静かに過ごす時間が無かったのである。それで、なんだか自分を見失ってるような気がしていて、いかん、わたくしを回復せねばならぬと、久しぶりにツタヤに行ったのである。男らしく、男はつらいよを2本借りた。洋画はもちろん、エロいようなものも一切借りてはおらん。三十路男性が週末の夜に男はつらいよを2本借りて帰る。いやはや、PTAに推奨されるのではないかというほどの健全さである。

結果から先に言おう。二日に分けて見るつもりが二本連続で鑑賞、その間、一人鍋+第三種ビール360ミリ一本+白ワイン一本+赤ワイン1/2本で泥酔。

悲壮感ただようほどに一人で楽しく過ごしてしまった。膝は数え切れないほど叩いたし、笑い過ぎてその拍子に、後頭部を壁にしたたか打ち付けたりして、「ひぃっ、ひぃっ、痛っ、うけ、痛っ、うける、寅さんまじいいなぁー、ひぃっ、しかし痛ー、まじ痛い」などと悶絶したりしておりました。いや、振り返ると単に悲しいばかりです。

それにしても今回のは傑作であった。こんなのがあったのか。男はつらいよ「寅次郎頑張れ」という話である。

説明はめんどうくさいのだけれども、寅さんの留守中に、ワットというあだ名の電気工こと中村雅俊(この映画の製作年1977年のころは、半端なく男前である)が下宿人として生活している。そこへ寅さんが帰ってくる。中村雅俊は寅さんを歯ブラシやなんかの押し売りと勘違いして追い出そうとし、喧嘩になる。寅さんはおれの留守中にこんな奴を住まわせるなんてと怒る。

中村雅俊はいさぎよく出ていく。しかし寅さんも居心地が悪くなって出ていく。二人とも行くところもないのでふらふらしていると、寅さんと中村雅俊はパチンコ屋や定食屋で偶然に会い、話すうちにいい奴だと分かり意気投合する。寅さんは好きなだけおれの部屋に住めと言い、中村雅俊はとらやの二階に戻る。

中村雅俊は寅さんと会った定食屋の店員に恋をしている。名は幸子(大竹しのぶで、これもやはり若くて美しい)といい、幸子のほうも中村雅俊に好意を持っている。寅さんのはからいでデートをすることになり、寅さんは中村雅俊にデートのいろはを伝授する。中村雅俊は寅さんに教わった通りのデートをする。そしてデートの最後に「アイラブユー」と言うんだと教えられていたのだが、おそろしく純朴な青年として描かれている中村雅俊は、それが言えない。

後日、ようやくで意を決した中村雅俊は定食屋に行き、入るなり、他の客がいるのも構わず言う。「さっちゃん、おれと結婚してくれ」。しかし幸子は、なんで今そんなことを言うのか馬鹿と言って、泣きながら逃げる。というのもこの時、幸子は、田舎の母が急に倒れたとの連絡を受け、今すぐ田舎に帰ろうとしていたところだったのである。中村雅俊は完全に振られたと思い、死んだような顔でとらやに戻る。部屋に閉じこもり、ガムテープで障子などに目張りをして、ガス栓を開ける。ガスが満ち始める部屋で、遺書を書き始める。文章に詰まり、煙草を吸おうとするのだが、ガスに引火して爆発する。

長々と書いたが、まあそういうような話である。まさか男はつらいよのようなザ・ピースな映画においてガス自殺(未遂)、ガス爆発が起こるとは思わず、まるでドリフのような展開にひとり大爆笑してしまった。

いろいろと共感することが多かったのだが(自殺するところとか)、にしても、人間と人間の縁において一番重要なのはタイミングだよなあとつくづく思った。

この世界にはいろんな素敵なことやものがある。しかし、満腹のときにいくら素晴らしい食べ物を出されても食べる気にはならないし、また、下世話だが出会い系や婚活の広告だって、寂しさ切なさを感じている人の心にこそ深く響くに違いないのである。

ぼくはこれまで無数の失恋をしてきたのではあるが、ぼくを含めて、恋愛に苦しむすべての老若男女に言いたい。ほとんどの場合、その行為や言葉がだめだったわけではないと思う。たまたま、そう、本当にたまたま、タイミングが合わなかっただけなのだ。

タイミングさえ合えば、どんなに間の抜けた言葉でさえも、素直で真摯な気持ちがあれば必ずや届くものだと思う。

しかしそのタイミングというやつがすべての元凶で、誰が、いつ、何を、どのように思っているか、わかるわけもなくて、まして、そこに合わせられるわけもない。そうして結局のところ、神のみぞ知る、ということで。

袖摺りあうも他生の縁とはよくいったもので、しかし、いちかばちか、袖摺りあったその瞬間を信じ、すべてを賭けるしかないのだ。

勘違いでも思い込みでもいいではないか。

ぼくはきみのことが好き。大好きだ。それですれ違ったとしても、わざわざ自殺などしなくとも、自然とまた他生があるというものだろう。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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