ちょっとお金の話をしよう

  2015/07/03

人はあまりお金のことを口にしない。かなり親しくても、その内実までは話さない。

実際、親友でも恋人でも、懐の状況がわずかに知れるのは飲みに行くときくらいのもので「今日、金がない」とか、「いま、節約してる」とか、その程度のものである。

だから、彼や彼女が、食費にいくら使っているか(いわゆるエンゲル係数)、ガス代、電気代、電話代、娯楽費等々に、どのようにお金を使っているか、99%は知らない。

まあ、たまに、「あ、新しい服買ったんや」なんてことはあるが、しかし、それ以上のことがうかがい知れるものではない。

閑話休題。

久しぶりというか数年ぶりにシェル美術賞に応募しようかなと思い立つ。何もしないよりはやったほうがいいわけで。

で、出すなら限界まで出そうかということで、100号を3点。

ケント紙を水張りして描くので、木製パネルが必要である。そうして、ネットで「木製パネル 激安」とかで探す。こんなキーワードで検索をかける時点で、芸術家の魂もクソもあったものではないと思う。ほとんど悪魔に魂を売っているのでは?

いやいや、芸術家なんてそんなもんだから。金なんてたいして持ってない。いや、ほとんどない。もっと、全然ない。

1枚15,000円くらいから探しはじめ、比較検討、価格検討、ようやく最安と思われる9,500円程度のところで落ち着く。×3で約3万。

それから出品料が14,000円。そして広島から東京までの送料、おそらく往復で10,000円くらいだろうか。

それでまあ、ざっと合計54,000円。

その投資をして入選すれば言うことはないが、ただ1枚うすっぺらい50円のハガキで選外という通知を受け取れば、残暑の中で汗と涙がほほを伝うことはまぬがれない。

ついつい、54,000円あれば何ができた? なんていじきたないことも考えちゃう。54,000円あればね、いろいろできると思うよ。

にも関わらず、その54,000円をかけて、わざわざ綺麗な画用紙を苦労して色鉛筆で"汚して"、54,000円をもらうのではなく、"払う"。

やってらんないね! おっしゃる通り。

でも、そこには、高級ホテルに泊まるとか、高い食事をするとか、金のかかる性欲処理をするとか、とにかくは一般的なわかりやすい快楽以上の快楽があり、そして自分自身、そうする方が価値があることだと思うからそうするのである。

そうじゃなかったら、おれは今すぐ北京ダックをケンタッキーのように雑に頬張りながらソープランドで大股広げて入浴してくるはずだ。

だから、家に帰ろう。帰って絵を描こう。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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