渡米のお知らせ

本年2019年3月末より、カリフォルニアのロサンゼルスに移り住むことになりました。

シンガポールから帰国して3ヶ月足らずではありますが、かねてより準備しておりましたビザも下りたため、ここにお知らせさせていただく次第です。

ちなみにアメリカには一度も行ったことがありません。カリフォルニアあたりを西海岸というのをついこのあいだ知ったくらいですので、コネはもちろん、知り合いの一人も彼の地にはありません。

それはさておき、「渡米」という言葉には夢があります。いっそ甘美でもあります。しかし、私の実情はそんなに格好のいいものではない。なぜならシンガポールに渡った時と同じく、しがない雇われ人としての渡米だからです。時間を切り売りする賃労働を軽蔑しながらも(たとえ正社員でも同じことです)、結局そのような切り口でしか動くことができなかった歯がゆさがあります。

もしもアーティストとしてということであれば、四六時中ニヤついて自ずと物言いも自慢の色を帯びたでしょう。

とはいえこの一年、さまざまな可能性を探ってきました。香港やイギリス、ドイツなども候補地として動いてもみましたが、ついに得られたのがこの選択肢だったのです。

欲を言えば現代アートの中心地であるニューヨークがよかった。アーティストとしての野心がある者なら当然でしょう。しかしあそこは競争率が高く、私の能力では及ばなかった。そんなこんなでロサンゼルスに落ち着いたわけです。まあ人生なんて、ベストを選べることなどそうはなく、ベターなところで妥協しながら生きていくものだろうと理解しています。

例によって、この先どうなるかなどまったくわかりません。何かしらものにできるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。

しかし正直なところ、結果なんかはどうでもいいような気がしています。ただ単にアメリカという場所が今いる場所よりも楽しげに見えるから行ってみるだけであって、それ以上でも以下でもない。要するに「なんとなく」です。

ある程度の歳を重ねたいま思うのは、高邁な意志や壮大な計画なんてものはたいして重要ではないということです。予想や期待は裏切られるためにあるようなものだし、たかが一日だって思い通りにはいかない。だいたい、生まれてきたことそれ自体が事故みたいなものです。そんな事故、アクシデントに秩序を与えようとするなんてナンセンスでしょう。

そういうわけで私は、最近ではもう難しいことを考えるのをやめました。しばしば考えているフリはしてみせますが、実際は何も考えていません。小賢しく考えれば考えるほど、不安はつのり、懸念は深まり、何もできなくなるに決まっているからです。それは人間としてもっともつまらないことです。

そこで「なんとなく」というのは、実に頼りになる感覚ではないでしょうか。現実の厳しさやもっともらしい見通しを並べ立てるより、何万倍も「なんとなく」の方が強く確かだと思います。だから私は、自分の中にある「なんとなく」を信じて渡米したいと思います。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  • 読書記録

    2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。

  関連記事

浮き足立った、ふくらはぎ

2008/07/04   エッセイ

帰る。 世界堂の紙袋の中にはサムホールパネルが四枚。これで次の個展材料は一応すべ ...

アメリカのバス

ロサンゼルスでバスに乗るのはホームレスだけだ。 何かの記事で読んだし、同僚もそう ...

呑みは付き合い、仕事のうち(自腹で割り勘という会社飲み会の功罪)

久しぶりに後輩の竹内(仮名)と飲んだ。後輩と言っても、出身や会社が同じわけでもな ...

小さなことを慈しむ

2008/12/12   エッセイ

靴の裏に何かくっついてる気がする。ガムかもしれない。いやそれよりも小学校の時の上 ...

いつまでも鈍く黄色い

2008/02/05   エッセイ

即座に樋口のマネをして禁煙してみた今日。まー死ぬほど苦しいわけでもない、けれどふ ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2024 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.